【映画批評 過去記事から】
あしたのジョー■2010/シネスコサイズ/131分
■制作:OXYBOT
監督:曽利文彦
脚本:篠崎絵里子
原作:高森朝雄、ちばてつや
撮影:橋本桂二
照明:石田健司
編集:州崎千恵子
音楽:高橋哲也、北里玲二
出演:山下智久、香川照之、伊勢谷友介
   香里奈、勝矢、杉本哲太、津川雅彦


 東京の下町で殺伐とした生活を送る青年・矢吹丈。元ボク
サー・丹下段平はその天性の身のこなしの中にボクシングの
センスを見出すが、問題を起こした丈は少年院へ入ることに。
 そこで同世代のプロボクサー・力石徹と運命的に出会った
ジョーは、自らプロのリングを目指し始める。


 原作漫画のみならず、アニメーション作品としても高い評
価と人気を得ている『あしたのジョー』の実写映画化という
ことで、正直期待以上に不安も大きかったが、曽利監督は、
的確な原作の解釈とイメージの抽出力・再現力で、この高い
ハードルを見事にクリアしたといえるだろう。

 同監督の『ピンポン』や『ICHI』同様、本作でも物語を効
果的に語るために集中的かつ適切にVFXを駆使し、漫画や
アニメーションに劣らない実写ならではの表現をみせる一方、
丹下ジムの美術や泪橋・ドヤ街のオープンセットなど、ドラ
マのリアリティを支える舞台を実景としてしっかり作り込む
ことで、広さと奥行きのある映像を作り出した。
 最も困難を極めたであろう配役も、ベストなメンバーが揃
っている。実際にトレーニングを積んで役に挑んだ山下智久、
伊勢谷友介の鍛え上げられた「本物の肉体」が見せる迫力の
身体性と、終始その冴えを失わない鋭い眼力が圧倒的な迫力
を漂わせ、丹下段平=香川照之(特殊メイク技術が秀逸!)、
白木葉子=香里奈も、原作のキャラクターイメージを損なわ
ず、それぞれの役柄をくっきりと肉体化してみせる。

 シネスコサイズの画面に飛び散る汗と、そこに滲む闘志。
二人のボクサーから「実際」に繰り出され、相手に叩き込ま
れる生のパンチのスピードとダイナミズムをベースに、物理
的な時間を引き延ばすVFX効果が、闘いの激しさのイメー
ジを倍加し、観るもののエモーションを否応なく揺さぶる。


  70年代初頭の「時代のハングリー感」をボクシングとい
うストイックなスポーツに託すことで共感と憧憬を得た「あ
したのジョー」という物語。 戦後20年で復興した昭和の時
代の作品と比べて、 バブル景気崩壊後20年経ても、 ある面
では今だ「復興」し切れていない平成の時代に作られた映画
版『ジョー』は、かすかに類似性をもちながらも、しかしそ
の時代の青春像という点ではまるで共鳴しない。
 「時代を語りたがる」世代と、「時代にかかわらず」生き
ている世代。埋まらない二つの世代のズレを丸ごと引き受け
た本作は、「記録フィルム」的なリアルな昭和の日本ではな
く、現代的ニュアンスの濃い「乾いた」日本像を、あたかも
時代劇や西部劇の「荒野」のように仮想現実的に描き出して
いる。

  矢吹丈役・山下智久は85年生まれ、 力石徹役・伊勢谷友
介は76生まれ、 そして監督の曽利文彦は64年生まれである。
 年代もバラバラの「あしたのジョー以後の世代」の男たち
が作り出した本作が映し出すものは、上昇志向の「ハングリ
ー」さではなく、より遠くへ、ただひたすら前へと進み続け
る「クール」さである。それは「飢え」ではなく「乾き」と
いってもいいかもしれない。いわば、「ボクシング=ハング
リー精神」という決まりきった「縛り」から解放されたとこ
ろに、本作の意義は存在するのである。

 醒めた視線のジョーと醒めた思考の力石が、ボクシングと
いうスタイルで対峙し、ひたすら自分の中の信念に忠実に、
ストイックに拳を交える。渇きを癒すたった一杯の水を求め
て。それが本作における二人の、ほとんど全てのドラマであ
る。(ハングリーという意味でドラマを生きるのは、ボクシ
ングに自己のアイデンティティを賭けている葉子や段平の方
だろう)
 映画『あしたのジョー』は、特定の時代、あるいは「時代
の境界」を越えて、常に「同時代的」な作品として存在し続
けるだろう。時代が豊かになって「飢える」ことはなくなっ
たとしても、現代を生きる人の心はいつも「乾いて」いるか
らである。
(天動説:2011/10/12)
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