【映画批評 過去記事から】
行きずりの街■2010年/ヴィスタサイズ/カラー/123分
■制作:セントラルアーツ
監督:阪本順治
脚本:丸山昇一 原作:志水辰夫
撮影:仙元誠三
照明:渡辺三雄
編集:普嶋信一
音楽:安川午朗
出演:仲村トオル、小西真奈美、南沢奈央
   窪塚洋介、菅田俊、佐藤江梨子、谷村美月
   杉本哲太、ARATA、石橋蓮司、江波杏子



 郷里で塾講師をしている波多野は、音信不通の教え子・ゆ
かりを探すため、12年ぶりに東京を訪ねる。かつて名門女学
園の教師をしていた彼は、当時の生徒・雅子との恋愛がきっ
かけとなり、教職を追われた過去があった。雅子と再会し、
ゆかり失踪の真相に絡む学園の疑惑に近づいた波多野は、そ
の陰謀の渦中に巻き込まれて行く。

 気骨ある男の映画をコンスタントに手がけてきた監督・阪
本順治が、秀作『カメレオン』(08)でタッグを組んだ丸山昇
一の脚本、数々の娯楽活劇を撮ってきた仙元誠三のカメラ、
そして、東映出身の生粋の活劇俳優・仲村トオルの主演、と
いう鉄壁の布陣で挑む本作は、「刑事」でも「国家エージェ
ント」でもないごく普通の男が、予想外の事態に直面しなが
らも不屈の意志で状況を突破していく、究極のハードボイル
ド・ストーリーである。

 若さ故の思慮の足りなさから愛する女性を傷つけた過去を
抱え、今でもそのことを深く悔やんでいる男。巻き戻された
過去と現実の間で揺れ動くその心情を、仲村トオルが等身大
の年齢との絶妙なバランスの中で好演。銀幕を支え切る強度
と存在感の大きさをみせてくれる。対する雅子役の小西真奈
美は、かつての「教え子」という設定イメージをきっちり保
持しつつ、今までに無かった「大人の女性」の魅力を鮮やか
に表現。セリフ以上にその存在感やニュアンスでそれぞれの
「過去と現在」を感じさせる二人の演技のアンサンブルが素
晴らしく、とりわけ着替えのパンツを巡って男女間に噴出す
る「感情の応酬」は秀逸。二人の性格や経験を印象づけなが
ら、前後の脈絡の中に連なる「瞬間」のドラマを描きつつ、
なおかつそのシークエンスだけを切り出してみても、ユーモ
ラスな味わいを含んだとても面白いものになっている。
 さらに、波多野とゆかりを追い込む裏社会の男・中込に窪
塚洋介が扮し、インテリだが腕っぷしも強く、熱くも冷たく
もない「血の温度」を持ったユニークな設定の悪役を、例に
よって独特の存在感で快演。00年代以降の東映を背負って
立つ俳優は、仲村トオルと窪塚洋介なのではないか…と改め
て感じさせてくれる。
 その他にも少数精鋭のキャストが、物語上のミスリードを
誘う、眩惑的かつ癖のある役どころを演じ、1対1の緊張感
ある演技勝負を繰広げるのも観どころで、とりわけワンシー
ンのみ出演の谷村美月が見せる、まるで覇気の無い「普通の
人」演技には驚かされる。その「一瞬誰だか気がつかない」
ほどのオーラの消しっぷりは必見である。

 冒頭からしばらく、主役の仲村トオルの「顔」をほとんど
映さないという挑発的な画作りから始まるこの作品は、全編
にわたってロングショットが多用されるのが特徴で、一貫し
て傍観者的である「ひいた」画面は、フレームに人物の全身
の演技を捉えることで、映像が常に映画的な動きの面白さと
緊張感を維持している。また、映像の肌理はどのショットも
常に「潤んで」いて、人の体温、あるいは情感を感じさせる
が、本来「乾いた」描写が肝要であるハードボイルドとのギ
ャップ、そこに生じる「化学反応」が、映画に独特なニュア
ンスを醸し出していて、すこぶる官能的だ。
 ギリギリまで日常的なリアリティをベースにした演出は、
クライマックスのアクションシーンにもそのまま適用され、
ハリウッド映画的な派手なスタイルを一蹴、きわめて「日常
的」なレベルでの格闘戦を構築。抑制的で乾いた殺陣と、前
述の「潤んだ」描写=「痛み」という情感とが折り重なり、
観る側の脈動と同期して、血魂を沸き立たせる。
 
 映画『行きずりの街』は欠落した時間を補おうとする人た
ちの物語である。それは波多野たちだけでなく、黒幕の池辺
や中込も(それぞれの価値観の違いはあるにせよ)同様であ
る。過去にも戻れず、未来へも進めない、ただ現在の時間を
過ごすしかなかった人々。
 波多野は、ゆかりを探して助け出すことで、相対的に過去
を清算し、それと同じレベルで雅子への愛を再確認すること
で、現状を突破するエネルギーを得ようとする。このぐるぐ
ると循環する時間と意識の流れ。「過去」の記憶として忘れ
らずにいた雅子と、「未来」に生きようとするゆかりとの間
を駆け回ることで、失った12年の過去とこれからの未来を一
本につなげて、自分自身の「現在」を再生していく。
 池辺も中込も、その「時間と意識の循環」が正常に機能し
ないが故に「世界=映画のフレーム」から弾き出され、自滅
していくのだ。
 映画のラストショット、波多野・雅子・ゆかりの3人が並
んでひとつのフレームに収まる。それは現在・過去・未来の
時間がひとつにスッキリとつながって動き出したということ
であり、映像でドラマの完結を明示してみせる、極めて優れ
た演出である。

 「ハードボイルド」という映画ジャンルを、そっくりVシ
ネマに明け渡した格好の日本映画界に、あえて一矢報いる本
作。青春/恋愛映画が主流の現況に抗おうとする、その姿勢
それ自体が「ハードボイルド」的だが、その活劇の鼓動はい
まだ途切れることなく、映画の内部(物語)だけでなく、外
部(映画自体)にも響いてくる。おそらく、その鼓動が止ま
った時にこそ、日本映画はゆっくりと朽ち錆びていくのでは
ないだろうか。

(2010.12.01 天動説)


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