【映画批評 過去記事から】
ハッピーエンド■2008年/HD/カラー/90分
監督・脚本・編集:山田篤宏
撮影:ジェフリー・チュウ
照明:原春男
美術:柳澤ひろ子
音楽:牧野将子、木原暁
出演:菜葉菜、長谷川朝晴、河合龍之介
   中村麻美、松澤傑、黒田としえ
   福田らん、隼人、広田レオナ

※山形国際ムービーフェスティバル
 スカラシップ作品


 映画を観るのが大好きな桃子は、唯一ラブコメだけは大嫌
い。馴染みのレンタルショップの店長・黒田にも「女の子な
のに…」と呆れられるが、映画みたいな恋なんてあるわけな
い、と断言して取り付く島もない。そんなある日、突然彼女
の周囲にはラブコメ映画みたいなことが次々と起き始め、次
第に恋愛に前向きになっていく。黒田もそんな彼女がだんだ
ん気になり始めて…。
d(>_<  )Good!!(2010/11/2)




 およそ映画と呼ばれるものの大半は、限りなく現実に近い
映像を紡ぐ事で私たちの日常によく似た「仮想現実」を映し
出す。もちろん、それらはあくまで表層的に似ているだけで
あって「映画のような出来事」など、現実にはまず起こりえ
ない。しかし私たちは「映画と現実は違うものである」と強
く認識するが故に、より一層「映画」の虚構性を求め、それ
を楽しんでいる。
 本作の主人公・桃子もそんな映画と現実の狭間で、平凡な
毎日を生きる一人だが、ある日突然「空から洗濯機が降って
くる」という超非常識な出来事との遭遇をきっかけに、まる
で「恋愛映画の主人公」のような状況に翻弄されていく。
 「映画史上最もベタなラブコメディ」と銘打たれた本作は
そんな彼女の不器用な恋の顛末をとびきりチャーミングに描
いた作品である。「お約束」満載の「ラブコメ映画」的世界
の中で、ガチガチのアンチ・ラブコメ主義だった桃子がまる
でその主人公そのままの「浮かれモード」で行動しては、ふ
と冷静に自分を振り返って困惑する…という繰り返しが、何
ともユーモラスで微笑ましい。

 物語自体は至ってスッキリとシンプルで、ドタバタした過
剰な笑いや強引な展開を持ち込まない抑えた作劇によって、
作品が奇を衒っただけの「没映画」的なものになってしまう
危険性を回避、文字通りの「ベタなラブコメ」というよりは
それを映画のコンセプトとした描いた、極めて「オーソドッ
クス」なスタイルの映画となっている。
 一方、映画全体のビジュアルは、雑貨や駄菓子のようなポ
ップでキュートなデザイン感覚でコーディネートされ、オー
プニングタイトルの演出デザイン、「アニメキャラ」的なテ
イストをほどよく加味したルックスで造形された桃子のキャ
ラクター、山形ロケによる実景をグラフィカルで洒落た映像
として鮮やかに切り取る「視点」のセンスなど、明らかに日
本を舞台にしながら、そこから欧米風のテイストだけを巧み
に抽出してみせるトリミングの妙が、花も実もあるウソ八百
を成立させるための「ファンタジー世界」を見事に創り出し
ている。

 新しいタイプの巻き込まれ型ヒロインを演じる菜葉菜は、
「気が強いくせに不器用で恋愛下手」という性格の女の子を
質感のある演技と細かいニュアンスでナチュラルに演じ、桃
子を愛すべきキャラクターとして成立させている。観る側に
媚びない親近感の獲得、既存の女優とはひと味違う存在感が
印象に残る。
 彼女を取り巻く人々もそれぞれ個性的だが、とりわけ主人
公の友人たちがドラマに絶妙なアクセントを加えている。
 桃子の友人で、少し不思議系のふわふわ感が魅力的な真紀
役の中村麻美。のんびりした性格ながら鋭い観察眼で桃子と
黒田の心情を察知しているレンタル店の店員・水野役の松澤
傑。いずれもラブコメにおける「友人(悪友)」キャラの定
番をあえて「裏返した」設定になっているのが面白い。

 『ハッピーエンド』は「物語という虚構(映画の内部)」
の世界と、それを内包する「枠組みとしての映画=現実(映
画の外部)」の世界が「入れ子細工」のようになった「階層
構造」になっている。「図書館」「映画館」「ビデオレンタ
ル店」など、主人公たちは常に「パッケージされた物語」の
中に囲まれていると言えるが、これは見事に本作の世界観を
対照的に象徴している。
 「物語」と「その登場人物」、そして「その物語の観客」
というまったく次元の異なる階層が、「映画」というキーワ
ード(モチーフ)によって、ひとつに結合された「世界」。
(劇中で桃子たち自身、「もしかしたら私たちも映画=誰か
の物語の中の登場人物なのかも…」というメタレベルの疑問
を抱いているが、言うまでもなく観客である「私たち」の現
実もまたこの階層のひとつに含まれている)
 そして、有機的かつパラレルに成立しているこの「世界」
に対して、シンプルな恋愛ドラマが「垂直方向から突っ込ん
でいく」ことで、そこに化学反応的に映画の面白さが生まれ
ていく。

 全体的に見ると、物語は大きな輪になって、ぐるりと一巡
りして元の場所へと戻る形になっていて、一見すると、何も
変わっていない様にも見える。しかしそこは、場所は同じで
も「一巡りするだけの時間を経て辿り着いた場所」である。
(それを示す様に、劇中には同じ構図で反復→変化するショ
ットが数多い)
 いつもと同じだけど少しだけ違う場所。桃子も黒田も、ほ
んのちょっと「観る角度」を変えただけである。しかし視点
をずらすことで初めて観えてくるものもある。いつも何気な
く見ているものや、ありふれたものの中にこそ、本当に大事
なものが隠れている。それは「今まで食わず嫌いで借りたこ
とのなかったDVDに、ちょっと手を伸ばす」くらいの勇気
があれば、いつでも誰にでも開ける「新しい世界への扉」な
のだ。
 映画『ハッピーエンド』は、そんな「真理」を明るくフラ
ンクに、まるでポップコーンの様にそっと手渡してくれる。
 私たちの目の前にも、いつか突然「冷蔵庫が降ってくる」
かもしれない。誰かがそれを望む限り、「幸せの物語」はけ
っして終わらないのだ。
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