【映画批評 過去記事から】
インビクタス■原題:INVICTUS
■2009年/アメリカ/シネマスコープサイズ/2時間14分
監督:クリント・イーストウッド
脚本:アンソニー・ペッカム 原作:ジョン・カーリン
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス
   ゲイリー・D・ローチ
音楽:カイル・イーストウッド
   マイケル・スティーブンス
出演:モーガン・フリーマン、マット・デイモン
   スコット・リーヴス、ザック・フュナティ
   グラント・L・ロバーツ、トニー・キゴロギ
   マルグリット・ウィートリー


 長年にわたる投獄生活を経て、ついに南アフリカ共和国初
の黒人大統領となったネルソン・マンデラ。いまだにアパル
トヘイトによる人種差別や経済格差の残る国をひとつにする
ため、ラグビーチームの再建を考えた彼は、チームキャプテ
ンのピナールとともに、自国で開催するワールド・カップ出
場を目指す。

 ここ何作か、重い内容の作品が続いたイーストウッド監督
が、傑作『グラン・トリノ』を、ターニングポイントとした
かのように作品イメージを一変。実在の人物の伝記という重
みのあるテーマを取り上げながらも、明るく軽快なタッチで
みせていく。「光と影」を強調した深いトーンが特徴的とも
いえるイーストウッド作品に比べて、ほとんどのシーンが明
るい陽光の下であり、キャラクター描写にもユーモアのセン
スが満ちていて、『ブロンコビリー』や『スペースカウボー
イ』にあったような、監督の「陽性」の部分が強く出ている。
 スポーツがモチーフということもあって、全体の印象もす
こぶる爽やかだ。

 政治色を全面に押し出し過ぎず、まさにマンデラ本人と同
じく「ラグビーチーム立て直し」に集中させた作劇は、実話
に基づくフィクションという側面からなのだろうか、過剰な
ドラマ展開(派手な見せ場や盛り上げ方)をあっさり排除。
 おそらくは通俗的に描けば感動を生むであろうショットも
(たとえばマンデラから渡された詩のメモをピナールが読む
シーンのような)ギリギリまで切り詰めてしまう大胆さで描
きながら、映画全体の骨太な構成は、ドラマの流れを迷わず
クライマックスに持っていく。「チーム優勝」という成果は
イコール「国民の一致団結」なのだ。こんなにシンプルで、
かつ力強い映画テーマもないだろう。

 たしかに映画前半、選手たちとマンデラには明らかに温度
差があるのだが、映画中盤チームが乞われて少年ラグビーの
指導をするシーンから、はっきりと「スイッチ」がオンにな
る。負けが込んでいて腐り気味だった選手たちが、素直な子
供たちの純粋なエネルギーに圧倒され、吹っ切れていくのと
同調するかのように、物語のエンジンもギアが入れ替わり、
徐々に加速し始めるのだ。そしてそれは次第にフィクション
とノンフィクションの境界線を突き抜けて、目の前にあるひ
とつの、確かな「現実的世界」を出現させる。

 クライマックスの試合シーンは、フィールド内に大胆に入
り込んでいくダイナミックなカメラワークと、それをジャー
プにつなぐ編集が映画の興奮を否応無く高めていて、仮にラ
グビーのルールなど何一つ知らなくても、スポーツが本来内
包している生のエネルギーが、フィルムの中からビシビシと
伝わってくる。この時我々は「映画の観客」であると同時に
この試合の「観戦者そのもの」でもある。劇場内を丸ごとラ
グビースタンドと同化させてしまうほどの大迫力はまさに圧
巻の一言である。

 理不尽な27年間の投獄生活を私怨に変えなかった大統領
の強い「信念」は、スタジアムの熱気を通して7分間の不屈
の「意地」ヘ受け継がれる。自分が変われば世界も変わる。
 このシンプルにして最強のメッセージを、エンタテイメン
トに乗せて、現代社会へ向けて放つ本作は、今この時代の現
状に真っ直ぐに突き刺さる、勇気と心意気に満ちた快作であ
る。
(2010.2.10 天動説:映画批評)


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