【映画批評 過去記事から】
キヲクドロボウ■2007年作品/HDV/93分
■制作:ProjectYamaken
監督:山岸謙太郎&石田肇
脚本・編集:山岸謙太郎
原案・総合デザイン・VFX:石田肇
撮影・照明:加納亮治
音楽:小林直幸
出演:正木蒼二、木村有、森川椋可
   三浦知之、小山剛志、太田美恵
   柴木丈瑠、上山克彦

 近未来。医療企業「レムコーポレーション」は、人間の記
憶をデータ化し、保存する技術を発表。その技術の根幹を成
す、故リーサ・グレツキー博士の記憶データには多額の懸賞
金が掛かっていた。記憶泥棒のタロウと「レム」の元研究員
スラッシュはそれを盗もうと手を組むことにするが、果たし
て鉄壁の防衛システムを破り、データを盗み出すことが出来
るのか…。


d(>_<  )Good!!(2010/09/27)


■「エンターテイメント」 
 「総制作費300万円の低予算の自主映画」、しかも近未
来を舞台にしたSFというと、どうしても「チープな映像」
か「独善的なドラマ」というマイナスイメージがつきまとう
が、本作ではそんなこれまでのイメージを根底から覆す。
 『キヲクドロボウ』は、SFガジェット、犯罪ストーリー
ガン・アクションというジャンル映画をベースとしながら、
「大企業」対「個人」の闘いと、「復活と再生」を求める主
人公・二人の男のドラマが描かれた、日本映画に今一番欠け
ている「エンターテインメント映画」のど真ん中をぶち抜く
作品である。
 アクチュアルなストーリー、伏線を巧妙に張りつつもシン
プルに構成されたドラマ、細部までこだわった丁寧な演出、
シャープで無駄のないまとまった画作り、メジャー作品に負
けない巧みなVFX、過剰さを排したナチュラルな演技…す
べての要素がスッキリとクリアに洗練されて、映画を形成し
ている。
 全編に横溢している映像的なセンスが演出と反応し合い、
常に画面が「映画的な運動」をみせて一時たりともシーンが
弛緩する事がない。ストーリーやキャラクター紹介も、その
画面運動の中で自然に提示されるので、映画が「説明的」過
ぎることもない。「物語」を語るベクトルも終始力強く、一
直線でブレがなく、最後まで観るものを飽きさせない。

■「近未来」という舞台設定
 街や工場など実景の巧みなチョイスとピンポイントで挿入
されるVFXのバランスが生み出す、リアリティのある「未
来の日本」の風景。しかしそこで安直に「SF」という設定
の自由さと戯れるのではなく、「登場人物たちが生きる日常
世界」というスタンスを舞台設定上に明確に保つこと、主人
公の周囲の「生活感」を慎重に排除し、また配置する(彼ら
は劇中、常に移動・行動用の車に寝泊まりしていて、自宅や
アジトはでてこない。作戦行動外ではまるでキャンパーのよ
うだ)ことで、街の風景を相対的に「未来的」なものとして
切り取ってみせる。
 見慣れた世界にSF的なニュアンスを加えつつ、角度を変
えて見直す事でまったく違った風景に見せてしまう、そのト
リッキーな映像作りは、まさに映画ならではの面白さだ。

■ドラマ=アクション
 完全警護のビルを舞台としたデータ奪取作戦のスパイ・ア
クション的面白さと、危機また危機のスリリングな展開にハ
ラハラし、胸躍るような斬新な空中カーチェイスや、リアリ
ティを重視した銃撃戦のアクションの緊迫感には思わず手に
汗握る。『キヲクドロボウ』には随所に凝ったアクションシ
ーンが散りばめられている。
 しかもすべての見せ場がストーリーの中にきちんと無理な
く組み込まれていて、ドラマときっちり一体となっていると
ころが素晴らしい。アクションや特撮部分だけが突出してし
まいがちなところをきっちり抑制していて、全体的に観ても
違和感がない。その一方で、タロウとスラッシュの何気ない
会話のシーンに盛り込まれた、共犯者以上・相棒未満の微妙
なニュアンスや、レム側の警備隊長の複雑な感情、カズマと
呼ばれる謎の女の描写等、キャラクターを巡るシーンも丹念
に撮られているが、メリハリのある演出によって、アクショ
ンシーンを含めた作品全体のテンポとリズムとの間にズレが
生じていない。この統一感こそが『キヲクドロボウ』最大の
特徴かもしれない。役者の演技もまた「アクション」なので
ある。

■映画におけるVFX
 ほぼ個人作業であったというVFXの精度の高さも特筆さ
れねばならないだろう。過不足のないデザインワークとメリ
ハリを利かせた映像処理によって、美術セットや特殊効果な
ど、物語世界を強固にバックアップしている。デジタル合成
はその技術レベルによっては一気に作品をチープにしてしま
いかねないが、本作におけるVFXは、元画像との親和性と
いう点に置いても自主映画のレベルを遥かに越えて」いる。
 とりわけ、作品中もっとも個性の強い存在である「空中飛
行する車」の描写は秀逸の一語で、飛行時の変形デザイン、
合成の精度は言うに及ばず、着地・離陸するときの車体の沈
み込みの表現や、飛行時やや前のめりの姿勢になるなど、細
部の表現へのこだわりが素晴らしく、単なる小道具というだ
けでなく、その使い方も含めて画面にきちんと「活きて」い
る。

■「盗まれた記憶」
 人の「記憶」がデジタルなデータとなって動かせる時代、
タロウの、スラッシュの、そして「人間」のアイデンティテ
ィを巡る闘い。…一見してSFクライムアクション風のスト
ーリーの中にそれらのドラマがうまく展開し、かつ破綻なく
渾然一体となった本作。単館での期間限定上映だけで終わっ
てしまうのは非常に惜しいと思うし、こういう映画がもっと
日本映画の中で増えてほしいと願わずにいられない。
 我々の「映画的記憶」の中からいつの間にか「盗まれて」
しまった、エンターテイメント映画の結晶がこの『キヲクド
ロボウ』なのである。            (天動説)
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山岸謙太郎   2010鑑賞  
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No title
こんにちは
傑作とおもいますが ツタヤでレンタルされないと
この作品も埋もれていたでしょうね
話の流れも自然で 潜入シーンなどもスリリングで
いいですよね
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Name:竹澤収穫



 邦画が中心の映画批評人。
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