【映画批評 過去記事から】
李相日映画祭り さんいる/1974年新潟県生。映画監督。

神奈川大学経済学部卒業後、日本映画学校に
入学し映画を学ぶ。
卒業制作作品『青~chong~』が「ぴあフィ
ルムフェスティバル」でグランプリを含む
史上初の4部門を独占。東京での8週間の
ロングランを始め全国各地で劇場公開され
た。『フラガール』では、第30回日本アカ
デミー賞最優秀作品賞、『悪人』で第34回
日本アカデミー賞優秀監督賞受賞。

↑2011年11月19日〜25日 札幌シアターキノにて



青『青~chong~』
■1999年/16ミリ/スタンダード/54分
■日本映画学校
監督・脚本:李相日
撮影:早坂伸、山田康介、橋本太郎
照明:飯村浩史、市丸知範
編集:滝口千恵子
出演:眞島秀和、山本隆司
   有山尚宏、竹本志帆

■主人公・テソンは、野球部の練習に明け暮れる、どこにで
もいる高校生。朝鮮人として誇り高く生きよと教えられてき
たが、姉の恋人も幼なじみの彼氏も日本人だと知り、何か面
白くない。一方、自分は日本人学校との試合で大敗して自信
をなくしてしまう…

 国籍の問題が呼び起こす「自己の存在」への煩悶を日常風
景の中に溶け込ませ、言葉にできない感情をありのまま映像
中に提示するドラマ。そのまっすぐな視点の有り様によって
この映画はまっすぐに胸を突く。強度の高いショットの積み
重ね、映画全体を明確に貫くメッセージ=ビート、ブレない
全体のテンポ、奇を衒わない、切れ味の良い編集のリズムが
確かな映画的感動を生み出す。
 自己を肯定することで他者も肯定することができると気づ
いた時、うすのろなこの世界はいつか人々に追い越されてい
くだろう。そのことを本作は暗示している。




ボーダーライン『BORDER LINE』
■2002/アメリカンビスタサイズ/118分
■PFF2000 スカラシップ作品
監督・脚本:李相日
脚本:松浦本
撮影:早坂伸
照明:原春男
編集:青山昌文
音楽:AYUO
出演:沢木哲、前田綾花、村上淳、光石研
   麻生祐未、都はるみ、深浦加奈子:

■やる気のないタクシー運転手、40代半ばのチンピラ、父
親を殺した高校生、ストレスを抱えた主婦、心に寂しさを抱
えた少女…傷を持つ者同士の人生が静かに交錯する物語。

人としての生き方、それぞれの道のギリギリの線上で「自分
自身」と闘う人々が、崩壊する家族関係を不器用ながらも何
とかつなぎ止めようと模索する。説明過多になるような描写
は大胆に削ぎ落とされ、ショット同士が相互にぶつかり合う
ことによって生まれるエモーションがドラマを前へ前へと進
めていく。
 偶然の出会いの連鎖は、主人公たちの人生をも連鎖的に再
生・修復させ、表層的なハッピーエンドを突き抜けて、それ
ぞれの静かな結末に辿り着く。節度を保ったカメラの距離感
が、映画全編の画面に情感的に保たれていて、その静謐さが
感動として胸に沁みる。
 同じ空の下にいながら、まるでバラバラな5つの人生。そ
の曇った空も、いつかはきっと青く晴れ渡るだろう。そんな
希望がラストシーンには確かに刻まれている。




69『69 sixty nine』
■2004年///113分
■制作:スターダストピクチャーズ
監督:李相日
脚本:宮藤官九郎 原作:村上龍 
撮影:柴崎幸三
照明:上田なりゆき
編集:今井剛
音楽:中シゲヲ、ザ・サーフ・コースターズ
   藤原いくろう、鎌田ジョージ
出演:妻夫木聡、安藤政信、金井勇太、太田莉菜
   水川あさみ、井川遥、原日出子、柴田恭兵

■1969年、長崎県佐世保市。高校生のケンとアダマは、
映画と演劇とロックの大イベントを企画。だが、ケンの願望
はどんどん膨れ上がり、ついには学校をバリケード封鎖する
ことに……
 自由に面白いと思う事をするため、10代のエネルギーを
丸ごと注ぎ込んで無鉄砲に炸裂する青春物語。
 目的と手段がどんどんズレて脱線と修復を繰り返しながら、
その雑然とした日常のフィールドを全力で駆け回るケンとア
ダマたち。口から出まかせの「革命」が次第に本気のリアル
な「革命」に移行する中でそのすべてに真剣に一喜一憂しな
がら駆け回る姿を描く、宮藤脚本ならではのキャラクター劇
の面白さ。日常生活と社会情勢の不条理が同列に並べられる
遊戯感覚。そのバカバカしくも楽しげな世界の中での若者の
姿を、げらげら笑いながらも温かく見つめ、その不安定な心
情の有り様をしっかりと捉える李監督の演出が素晴らしい。

 いわゆる「学園ドラマの再生」でもある「69年」という
時代設定だが、そういう理屈を突き抜けて「大人の論理との
対立」「真直ぐな恋と不純な動機」「衝動的バイタリティ」
など、観ている側に同時代的エモーションを呼び起こす、ポ
ップな味付けでありながら青春ムービーとしてコクのある内
容の快作。キャスト陣はいずれも素晴らしいが、とりわけケ
ンの父役の柴田恭兵が印象的。



スクラップへヴン『スクラップ・ヘブン』
■2005年/ヴィスタサイズ/117分
■制作:オフィス・シロウズ
監督・脚本:李相日
撮影:柴崎幸三
照明:市川元一
編集:今井剛
音楽:會田茂一
出演:加瀬亮、オダギリジョー、栗山千明
   光石研、森下能幸、田中哲司
   鈴木砂羽、山田辰夫、柄本明

■「想像力が足りないんだよ」…鬱屈した感情を抱いて「復
讐代行」業を始めるオダギリジョーと加瀬亮。そして世界の
終わりを思考する少女・栗山千明。偶然の出会いは予想外の
方向に転がり出す…
 空高く投げ上げたボールは青空に弧を描いて、ひととき爽
快だが、やがてボールは乾いた音を立てて落ちてくる。それ
を受け取って投げ続けるのか、取り損なうのか、ボールを捨
てて立ち去るのか…
 反体制的ビート感の中で3つのリズムが軽快に刻まれ、痛
快さを提示するが、やがて次第に不協和音とともに、物語は
「無音」となる。そのドラマの落差、痛みに満ちた感動。
「世界」を一瞬で消す方法とははたして何だったのか。
 バスジャック、交番襲撃、爆薬製造など、名作『太陽を盗
んだ男』と通じるモチーフを持つ一方、3人の関係は『ケン
タとジュンとカヨちゃんの国』にも重なり、時代を越えて、
直線上に連なる貫通・継続する、この「青春の閉塞感」の有
り様も興味深い。
 「彼ら」はこの先いったいどんな「世界」ヘ行き着くのだ
ろうか。




フラガール『フラガール』
■2006/ビスタサイズ/120分
■制作:シネカノン
監督:李相日
脚本:李相日、羽原大介
撮影:山本英夫
照明:小野晃 美術:種田陽平
編集:今井剛
音楽:ジェイク・シマブクロ
出演:松雪泰子、豊川悦司、蒼井優、山崎静代
   池津祥子、徳永えり、三宅弘城、志賀勝
   寺島進、高橋克実、岸部一徳、富司純子

■昭和40年代、時代の波で閉鎖に追い込まれた炭坑町を再
生すべく計画された常磐ハワイアンセンター。フラダンスシ
ョーを成功させるために雇われた元ダンサー。村の少女たち
はフラダンスを踊るために必死に練習するが……
 シンプルなストーリーを奇をてらわず、丹念に描くことで
素直な感動が生まれる好見本。時代が人の思いと裏腹に移り
変わって行く中で、新しい「鉱脈」を掘り起こすために少女
たちは運命を賭ける。
 フラとは、すべての神々と自然の命に対して感謝と愛を表
現する踊りである。タイトル通り、劇中の要所要所でフラダ
ンスが踊られる事(あるいは踊る事)で、俄然ドラマが躍動
的に活き活きと動き出す。ラストの舞台に満ちた幸福感はま
さに圧巻。




みんなはじめはこどもだった『The ショートフィルムズ/みんな、はじめはコドモだった』
■2008/ビスタサイズ/92分(オムニバス)
『タガタメ』
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
監督・脚本:李相日
撮影:山崎裕
美術:古積弘二
音楽:大友良英、ジム・オルーク
編集:今井剛
出演:藤竜也、宮藤官九郎、川屋せっちん、工藤英博、大西武志
   江口佑香、江口将人、池田宜大、石塚初美、児玉清(特別出演)

 末期ガンで余命3ヶ月と宣告を受けた初老の男・宮浦久雄
は、キャンプ場に停めた車の中に練炭とコンロを並べ始める。
隣には39歳になる知的障害者の息子。だが、思いつめた宮
浦の前に突然、「久雄の担当」だという死神が現れる…

朝日放送新社屋完成記念事業の一環として製作された短編オ
ムニバスの一本。共通テーマは「こども」。李相日監督によ
る本作は、「命」を巡るシリアスなテーマを監督ならではの
乾いたタッチの中で描くが、リアルで切実な演技をみせる藤
竜也に対して、シュールに暴走する宮藤官九郎演じる死神が
そこはかとなく面白い。




悪人『悪人』
■2010年/ヴィスタサイズ/139分
■制作:東宝映像制作部
監督・脚本:李相日
原作・脚本:吉田修一
撮影:笠松則通
照明:岩下和裕
編集:今井剛
音楽:久石譲
出演:妻夫木聡、深津絵里、満島ひかり、岡田将生
   樹木希林、柄本明、光石研、宮崎美子
   永山絢斗、松尾スズキ、余貴美子、塩見三省

■若い女性の殺人事件。ある金持ちの大学生に疑いがかけら
れるが捜査を進めるうちに土木作業員・清水が真犯人として
浮上する。彼はたまたま出会った女性・光代を車に乗せ、警
察の目から逃れるように各地を転々とする。やがて二人は次
第に強く惹かれ合うようになるのだが…

映画批評→



許されざる者(日本版)『許されざる者』
■2013///
■制作:日活、オフィス・シロウズ
監督・脚本:李相日
音楽:岩代太郎
出演:渡辺謙、佐藤浩市、柳楽優弥
   忽那汐里、近藤芳正、小池栄子
   小澤征悦、三浦貴大、滝藤賢一
   國村隼

【映画公式サイト】→

クリント・イーストウッド監督主演の同名作品の翻案。舞台
を日本の幕末期の北海道に移して描く。



怒り『怒り』
■2016年/サイズ/142分
■制作プロダクション: 東宝映画/ドラゴンフライ
監督・脚本:李相日
原作:吉田修一
出演:渡辺 謙、森山未來、松山ケンイチ 
   綾野剛、広瀬すず、佐久本宝 
   ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希 
   原日出子、池脇千鶴
   /宮崎あおい、妻夫木聡
【映画公式サイト→】


(2016/9 現在)
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