【映画批評 過去記事から】
踊る大捜査線3■2010年/シネマスコープサイズ/141分
■制作:ROBOT
監督:本広克行
脚本:君塚良一
撮影:川越一成
照明:加瀬弘行
編集:田口拓也
音楽:菅野祐悟
出演:織田裕二、深津絵里、ユースケ・サンタマリア
   伊藤淳史、内田有紀、小泉孝太郎
   佐戸井けん太、斉藤暁、小野武彦、北村総一朗
   松重豊、高杉亘、寺島進、小栗旬、柳葉敏郎


(。・ˇ_ˇ・。)ムム…(2010.7.16)


                   


 前作から7年ぶりの待望の劇場版第3作。前作は邦画史上
に残る大ヒットだったが、このままイベントムービーとして
の延長線上では、第3作は作劇的に厳しいのでは…という懸
念も拭い切れなかった。さらに本編の重要キャラクター・和
久刑事役のいかりや長介の逝去によりシリーズ存続そのもの
も危ぶまれる中、製作陣は3作目を作る意味、単なるイベン
トではなく、作品としての『踊る大捜査線』をしっかり成立
させるために、守りから攻めへと大胆にシフトする道を選ん
だようだ。
 状況は変わっても人の本質は変わらない…『踊る』という
作品世界のエッセンスは堅持しつつ、作品を大胆にリファイ
ン、絶大な人気に安住することなく、物語における時間経過
という事にしっかり向き合った『踊る3』は、シリーズの原
点に返りつつも、すべての面で「進化=深化」した「新生・
踊る大捜査線」というべき作品として完成した。

 係長に昇格した青島刑事を筆頭に、メインキャラクターそ
れぞれが経験と年齢を重ねることで、安定感と同時にキャラ
クター相互の関係性もより深くなっていて、例えば、立場を
越えて継続する青島と室井の信頼関係、すみれと青島の長年
の友情関係(今回は恋愛感情的なニュアンスも匂わせる)の
厚みと深さはドラマを支える隠れた軸として機能している。

 また大所帯となった湾岸署に加入する新メンバーも多士済
々。とりわけシリーズ番外編と同じ役で再登場、溌剌とした
存在感を見せる内田有紀、和久さんの甥という好設定で早く
も「踊る」らしさに馴染んで場を和ます伊藤淳史の二人が出
色。また、敵か味方か、複雑なキャラクターのクールな新世
代キャリア・鳥飼の存在も新たな『踊る』ワールドを予見さ
せる。

 キャラクターだけでなく、メインとなる舞台の変更、「湾
岸署の引越」というモチーフに象徴的なように、すべての面
がアップデートされているところが本作の特徴だが、映画の
スタイルとしては、前2作より画面の奥行きが深く、重奏的
・多層的な画作りになっている点が印象的。引っ越しという
状況設定にあわせて、画面(フレーム)内は常に人とモノと
で埋め尽くされ、日常と事件がゴッタ煮になって、ざわざわ
としたニュアンス、熱気が作品の活力を生み、作品全体のテ
ンポを強調している一方、画のトーンは逆に色彩を押さえて
徹底的にクールにまとめられている。
 この圧倒的な映像の密度の中で、笑いとシリアスの多層構
造はより緊密となり、その境界線上を絶妙なバランスで往来
するドラマは、この数年の映画で繰り返される「難病」モチ
ーフの隆盛を逆手に取ったかのように、ブラックユーモアの
領域に踏み込んでいる。
 前2作までのドラマを総括する様に「奪われる命」と「失
われる命」をめぐる「死」と「生」というテーマが事件に絡
めて描かれると同時に、今まではあまり描かれてこなかった
「奪う」側(犯人達)の内面的ドラマを加えて、そこに『踊
る』流の答えを提示する…もちろんそれは誰あろう、自分自
身や仲間の命の危険に遭遇し、先輩の死を乗り越え、今また
犯罪者とその事件という「命の現場」に立ち会う青島の行動
によって。カーチェイスも銃撃戦もない『踊る大捜査線』流
のエンターテイメントは健在である。

 シリーズの活性化のためにあえて大胆なブラッシュアップ
をおこなった本作は、その分、今までのシリーズが持ってい
た良い意味での緩さや笑いの要素が目に見えて少なく、映画
全体に脈打つハードな菅野祐悟サウンドの印象も含めて、全
体的にはやや硬質なイメージで貫き通され、その結果、旧来
の『踊る』イメージとのギャップから作品の賛否が大きく分
かれることになってしまった。しかしそれは「成長=進化」
した結果であって、けっして作品が「変質=劣化」したわけ
ではない。どんなに青島が昇進して舞台が変わったとしても
あの「緑のコート」が翻る限り、彼の中の「正義」は不変で
あり、『踊る大捜査線』のスピリッツもまた不変である。

 副題の「ヤツらを解放せよ!」のヤツらとは、実はそんな
『踊る大捜査線』という物語とそれを取り巻く状況そのもの
を意味するのではないだろうか。いったんすべてのものから
「解き放たれた」物語は、強固な磁場に引き寄せられて、あ
らためてより強靭なひとつの「世界」となり、再び軽快に動
き出す。旧湾岸者から新湾岸署へ。そして湾岸に吹く新しい
風、ラストショットはまさにそれを指し示している。(了)
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