【映画批評 過去記事から】
座頭市 THE LAST■2010/シネマスコープ/2時間12分
■制作:セディックインターナショナル
監督:阪本順治 
脚本:山岸きくみ 原作:子母澤寛
撮影:笠松則通 
照明:杉本崇 
編集:蛭田智子  
音楽:プロジェクト和豪
出演:香取慎吾、石原さとみ、仲代達矢、反町隆史
   倍賞千恵子、工藤夕貴、高岡蒼甫、寺島進
   ARATA、ZEEBRA、宇梶剛士、加藤清史郎
   豊原功補、岩城滉一、中村勘三郎、原田芳雄


d(>_<  )Good!!(2010.06.01)

 盲目でありながら電光石火の居合い斬りの技を持つ男・座
頭市。本作はそのシリーズにひとまず幕を降ろすべく、市の
壮絶な最後の死闘を描く時代劇だ。阪本順治監督は『新・仁
義なき戦い。』において、自身の持つテーマ性を取り入れな
がら、見事にオリジナル作品を換骨奪胎させてみせたが、本
作でもその胆力をもって座頭市の物語を描き出す。

 座頭市を「無敵のヒーロー」ではなく、斬るたびに後悔の
念を深くする「ひとりの人間・市」として捉え直すことで、
先行した北野武版、曽利文彦版座頭市が変化球で挑んだこの
名作に、真っ向からの直球勝負をかけた。それゆえに作品内
容もひたすらハードに、喜怒哀楽がより深く刻み込まれたソ
リッドな作品となっている。 
 横長フレームを活かし、引きの画を多用したショット、被
写体と常に一定の距離を取る「乾いた」タッチの映像は、広
大な村のオープンセットの作り込みの見事さとも相まって、
全編にリアリティを感じさせる。
 一方、見せ場の一つである殺陣においては、痛快・壮快な
カタルシス要素をあえて省き、ドラマの中にそれを不可分に
組み込むことで、常に生きるか死ぬかの緊張感をはらんで画
面にアクションが噴出する形になっている。竹林や雪の中、
崖など、通常の殺陣が困難な足場の悪い場所をあえて選んで
の斬り合いはまさに壮絶である。

 本作で市を演じる香取慎吾は、持ち前の明るいキャラクタ
ーを封印し、陰のある異形の存在を見事に体現している。大
柄な彼の身体が、舞台空間をひらりゆらりと動くたびに、周
囲の空気をぐるりと変化させる様や、裂帛の気合いとともに
感情が炸裂する台詞が素晴らしい。居合いの技はもとより、
ダイナミックな殺陣そのものが圧倒的な迫力に満ちている。

 さらに本作ではキャストそれぞれが、今までとは趣の異な
った役柄を演じる新境地に挑んでいるのも見どころ。
 石原さとみが市を一途に想う凛とした女性像を、反町隆史
が弱さを自覚し煩悶する青年をナチュラルに、寺島進がヤク
ザながら妻を愛する心優しい男を、岩城滉一が人のいい憎め
ない親分を、ARATAが凶暴で冷酷な男を、高岡蒼甫が自分の
存在意義に迷う青年を、工藤夕貴が鉄火肌の女将を、それぞ
れ好演する。善人でも人を騙し、悪人でも我が子に愛情をも
つ、そんな生身の人間たちの内面性が画面にしっかり現れて
いて、出演者の「顔」の有り様がいずれも深みを感じさせて
素晴らしい。

 愛する人を失ったことで平穏な暮らしを求める市。しかし
嵐のように荒れ狂う殺意が次々と周囲の人々を飲み込んでい
く。「暴力」という魔物に取り憑かれた男たち、そこにはす
でに敵も味方もなく、あるのは禍々しく口を開けた「死神」
の影だけだった。
 人は戦って血を流さずには生きていけないのか。劇中には
市以外にも「人が武器を取ること」を描いたシーンがいくつ
かあるが、とりわけ、幼い孫に対して倍賞千恵子演じるミツ
がその行為を叱責・否定するシーンがこの作品のテーマを象
徴していて印象深い。誰かがそれを断たねば未来永劫、人は
争わねばならない…。しかし、この現実の中では誰かを守る
ために武器を取り、あえて暴力を振るわねばならないことも
ある。市はその絶対的矛盾と、人を斬ることの躊躇、斬った
ことの後悔を再び背負い、救えなかった命のため、救いたい
故郷の村のため、捨てようと決めたはずの仕込みを抜く。そ
の哀しい宿命もまた負の連鎖の一部であり、真に『斬らねば
ならない』ものだ。それはすなわち「己をも斬る」という究
極の闘いである。心の奥に潜んでいる闇、それこそが市にと
っての「最後の敵」なのだ。

 血も涙も枯れ果てたラストシーンの無常感。明るい陽の下
で波音と風に抱かれて、ようやく訪れた安息の時。愛すべき
人のもとへ解き放たれた魂。まるで何事もなかったかのよう
な、乾き切った画面の中にあるのは、しかし哀しさではなく
ささやかな幸福感である。なぜなら「心の闇」が、ロウソク
のようにまっ二つに斬られた瞬間を、我々は確かにその「心
の眼」で観たのだから。
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