【映画批評 過去記事から】
時をかける少女(2010)2010年/ビスタサイズ/2時間2分
監督:谷口正晃
原作:筒井康隆
脚本:菅野友恵
撮影:上野彰吾
照明:赤津淳一
編集:宮島竜治
音楽:村山達哉
出演:仲里依紗、中尾明慶、安田成美
   青木崇高、石橋杏奈、勝村政信
   石丸幹二



 母娘二人暮らしのあかりは、母の和子が研究を続けている
大学に見事合格する。そんなおり母が交通事故に遭遇、病床
でうわごとのように繰り返す彼女の「願い」を叶えるため、
あかりは1972年の過去に戻ってある人を捜し出す決意をする。

 83年の名作『時をかける少女』の物語を新世代に継承する
青春恋愛映画。主人公・あかり(仲里依紗)が、オリジナル
では主人公だった芳山和子(安田成美)の娘という設定(但
し作品的には直截の関連性はない)や、はじめて36年という
長距離の「時間跳躍」をするなど、単なる続編・リメイクで
はなく、作品のエッセンスを的確に抽出(大林監督作へのオ
マージュ的要素も)した上で、新たな物語を創り出した「作
品スピリッツの継承」が素晴らしい。

 映画は冒頭から、灯るアルコールランプを合図に快調なテ
ンポで始まる。和子のチャーミングな言動の数々と日常風景
の点描が軽快に観せていく中、その流れの中に「シャーレの
中のアリがフッと消える」という非日常的ショットをサッと
放り込む手際の良さ。「日常的」世界に「非日常」要素をい
かにスムーズに持ち込むかという課題をすんなりとクリアす
るこのショットの編集は、この後に来るあかりの時間跳躍を
予見させていて、実にソツがない。(サクランボ=桜の関係
性は最後まで覚えておきたい)
 「時をかける少女」の最も重要な要素は「時間を溯る」こ
とだが、本作ではアナログ風なテイストでオリジナル版への
オマージュを感じさせる映像処理でタイムリープを描いてみ
せる。
 それを境に、現代のシーンと過去のシーンで編集のテンポ
やタッチが明確に変えてあることで、ことさらに画面内に際
立った仕掛けを施していないにも関わらず、70年代の風景が
「何げないリアリティ」とともに、ゆったり浮かび上がって
くる巧さ。その当時の時代感覚が判る人にとっては懐かしさ
を感じさせるニュアンスに溢れているし、その時代を知らな
い世代が感じる「未知の世界」感は、あかりが劇中の体験に
則して代弁してくれている。感覚的に捉えられる映像それ自
体が「違う時間(世界)に来た」という感覚=皮膚感覚/空
気感として感じられるところが素晴らしい。

 本作を評価するにあたっては、主人公のあかりを演じる仲
里依紗の存在感と圧倒的な魅力を外すわけにはいかないだろ
うと思う。豊かな表情や伸びやかな身体から溢れている、ま
さに「青春的」なエネルギーは、現在・過去・未来「時空を
越える」という物語の虚構性をあっけらかんと飛び越え、観
るものの興味を映画の中にどんどん引っぱり込む。
 その加速度的な勢いが、映画そのものをダイナミックに躍
動させていく。「神田川」的世界に何故かぴたりとハマって
しまうあかりと、不意の来訪者である彼女のペースに巻き込
まれる涼太の微笑ましい日常生活と名コンビぶりも楽しい。
 涼太を演じる中尾明慶も、素朴で背伸びしない存在感がま
さに適役である。
 病床の母のメッセージを伝えるという目的のために奔走す
るあかりは、過去の世界での人々との出会いや自身の生い立
ちを知ることを通じて、短い限定的な時間の中に凝縮された
「青春」という時間を駆ける。激しく揺れ動く気持ち、否応
なく過ぎていく時間。その刹那を切り取るように涼太のカメ
ラが回り、フィルムはメッセージとある想いを刻んでいく。

 そしてクライマックスシーン。あかりはここで時間跳躍で
はなく、自分の身体を駆使して走る。ひたすら走る。過去の
作品での主人公たちが、大なり小なり意識的に時間跳躍能力
を使えたのに比べ、あかりは「時を渡ってきただけ」の普通
の女の子に過ぎず、目の前の出来事に対しては真っすぐで純
粋な気持ちをぶつけるしかない。その絶望と紙一重の焦燥感
の炸裂が観るものの心を捉える。

 時間を越えて残されるラベンダー、写真、そして映画フィ
ルム。それらは伝えたかった(でも、伝えられなかった)気
持ちを「記憶」に留めるための、かすかな希望としてのタイ
ムカプセルである。和子がそれを「開けられた」ように、あ
かりもいつかそれを「開ける日」が来るのかもしれない。
 8ミリ映画を観たあかりが無意識に流す涙、桜の木の下で
微笑む大人びた表情が切なく、純粋で美しい。
「時をかけた」少女は、失った記憶と消えない想い出の狭間
で、止められない現在進行形の「時」をかけていく。
 「記憶」すること、決して忘れないことは究極的な「愛」
の形である。     (2010.03.24 天動説:映画批評)


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