【映画批評 過去記事から】
松ヶ根乱射事件■2006年/ビスタサイズ/1時間52分
監督:山下敦弘
脚本:佐藤久美子、向井康介、山下敦弘
撮影:鳶井孝洋
照明:疋田ヨシタケ
編集:宮島竜治、菊井貴繁
音楽:パスカルズ
出演:新井浩文、山中崇、川越美和、三浦友和
   烏丸せつ子、木村祐一、キムラ緑子、榎木兵衛
   西尾まり、安藤玉恵、康すおん、光石研
   宇田鉄平、でんでん


 雪の降りしきる小さな町・松ヶ根の国道で発見された女の
死体。警察官の光太郎がその検死に立ち合っていると、突然
女は目を覚ます。彼女はひき逃げされたことをまったく覚え
ていないと証言するのだが……
 とある平凡な町に起こった小さな事件。そこから始まる奇
妙な物語。それは小さな波紋となり、やがて町をゆるやかな
不協和音で包み込む。生き返った死体、ひき逃げの車、湖に
沈んだ金塊と生首、妊娠した少女、捕まらないネズミ…

 姿は見えないし、見た事もないけれど、確かにそこにいる
(らしい)「何か」。なんとかうまく回っているから今まで
あまり気にも留めていなかったこと。次第にその姿が見え始
めた途端、見慣れた日常がどんどん不快にズレていく。何が
どうなっているのか。何が変わって何が変わらないのか。そ
もそもここで、いったい「何が起きている」のか。
 状況が動くまで徹底的に粘り続けるカメラは、盗み撮りの
ようなニュアンスをはらんで、不安感をべったり張り付けた
まま、次々と切れ目なく連なっていくシーンを黙々と撮り続
ける。ジリジリとした微妙なノイズ=不協和音、「快感」の
ようなフリをした「不快感」が、じんじんと鈍い頭痛や腹痛
のように観るものを刺激する。

 この映画は平たく言うならば「他人の家の冷蔵庫」のよう
なものだ。果たしてそこに何が入っているのか、にわかには
判然とせず、賞味(消費)期限はどうなっているのか、そも
そもそれが口に合うものかどうかも見当がつかない。それで
いて、どっかりと目の前に存在し続ける、動かし難いモノ。
 主人公を含んだこの町は「得体の知れない冷蔵庫」であり
住人たちはその「中身」だ。実際のところそれらは決して致
死量には至らない程度の底意地の悪い毒性を持ったシロモノ
ばかりで、それにあたれば、醜悪な自己の内面を暴き出され
てしまうのである。

 物語の中心に位置しながら次第にその軸足がブレ始める主
人公・新井浩文、ダメ人間の(しかも全く似てない)兄・山
中崇、奇妙奇天烈な言動を繰り返す川越美和、コントと紙一
重の狂気をまとわりつかせる木村祐一。自分勝手で大柄な態
度で場の空気を重くする三浦友和。木に竹を継いだような人
間関係がその見かけを取り繕いながら、根本的に歪な球形を
形作って、やがてゴロリとあらぬ方向へ転がっていく。

 ラスト、彼らは何がどうなったのか。何が変わって何が変
わらなかったのか。そもそもここで何か「事件」は起きたの
か。我々が観てきたこの世界は「事件」だったのか「物語」
だったのか。日常と非日常がぐるぐる廻ってバターのように
溶け合った「現在(らしきもの)」をとりまく、淀んだ空気
を撃ち抜くように乾いた銃声が響く。
 終わりも始まりも、裏も表も判然としない奇妙な世界を描
いたこの作品は、ブラックな笑いとダークな匂いに満ちた戦
慄の映画である。

(2010.3.30 天動説:映画批評)


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