【映画批評 過去記事から】
ソラニン■2010年/ヴィスタサイズ/126分
監督:三木孝浩
脚本:高橋泉 原作:浅野いにお
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
編集:上野聡一
音楽:ent
出演:宮崎あおい、高良健吾、桐谷健太、近藤洋一
   伊藤歩、永山絢斗、ARATA、財津和夫



 OL2年目で会社を辞めた芽衣子と、音楽への夢をあきら
めきれないフリーターの種田。不確かな未来に不安を抱えな
がら、お互いに寄り添い、東京の片隅で暮らすふたり。だが
芽衣子の一言で、種田はあきらめかけた想いを繋ぎ、仲間た
ちと書き上げた曲「ソラニン」をレコード会社に持ち込むの
だが…
 青春映画というジャンルにおける、2010年代の代表作に
なりうる作品といえる本作『ソラニン』は、楽しいだけでも
悲しいだけでもない等身大の青春群像を、日常の中に潜む不
安や苛立ちを含め、終始一貫した「平熱感覚」のもとに綴っ
ていく。

 朝が来て、夜が訪れ、また朝が来る。楽しい時も悲しい時
も、人の思惑とは別に「日常」は繰り返され、決して終わる
ことはない。変わり映えのしない毎日。ふとした瞬間にわき
上がる不安や焦燥感。他愛のない会話をかわし合いながらも
それぞれが迷い悩み、八方塞がりな感覚を反芻しながら生き
ている彼らの姿を、映画は過剰さを排して淡々と描きだす。
 さりげなく盛り込まれた等身大のリアリティ、スクリーン
の中と現実の空気感がフラットにつながっている、という皮
膚感覚。この当たり前の感覚をごく自然なニュアンスで画面
に再現したところに、本作の素晴らしさの源泉がある。

 日常を「平熱」感覚で描こうとするその作劇スタイルは、
いわゆるドラマチックな「映画的事件」に対しても例外なく
適用され、物語上で起こる大きな事件(種田の事故とその後
の展開や、クライマックスのライブシーンなど)も、それま
で保ってきた「日常」の延長線上に置かれ、ことさら扇情的
に状況を展開させたり、感情的な方向にドラマが流されるこ
とを慎重に回避している。
 考えてみれば、「リアルな現実」は意外に「非現実的」過
ぎて、かえって当事者は冷静で客観的だったりするものだ。
 どんなに辛い日々でも笑ってしまうことはあるし、どんな
に楽しくても何だかふと空しくなるときがある。そんな当た
り前の「平熱感覚」が全編を貫いているからこそ、観客は同
じ「視線」、同じ「体温」を共有することが可能であり、種
田の想いや芽衣子の歌、ビリーの告白や加藤の決断も、ノイ
ズを交えない、よりストレートなものとして胸に響くのであ
る。
 主要キャストを演じる宮崎あおい、高良健吾、桐谷健太、
近藤洋一のそれぞれの存在感、「体温」を感じさせながら、
けっして気負わない演技も素晴らしく、好感が持てる。彼ら
が生み出す心地よい緊張感のあるアンサンブルは、まさしく
バンド・サウンドのように映画全編に響き渡っている。

 芽衣子たちが暮らす生活空間のリアリティと表現にも注目
したい。雑然とモノがあふれた「生活の匂い」を感じさせる
作り込みも見事だが、同時に芽衣子と種田のアパート=生活
空間の狭さは、そのままイメージとして「心的圧迫感」を連
想させる。それはライブハウスや練習スタジオ、会社オフィ
ス、通勤電車等とも符合して、日常生活における閉塞感を象
徴的に表しているが、その一方、芽衣子や種田が見上げる空
や土手の風景などの屋外シーンは、相対的かつ明確に「外の
広さ」=開放感、自由と希望を象徴するものである。

 物語のラスト、引っ越しでがらんとなった部屋。それまで
相対していた2つの空間性がここではひとつに融合されて別
の新たな形に変化している。狭くも広くもない空間。それは
芽衣子の次のステージへの移行を明確に示していて、きわめ
て印象的だ。そして続く次のシーンでは「解放された」空間
である土手の道をみんながゆっくりと並んで歩いていく。
 次に彼らはどんな「場所=空間」に向かうのだろうか。

 ライブ直前、ビリーが不意に「ただ生きていくことの大切
さ」を冗談のように、それでいてしみじみと口にする。無数
に連なる「平凡な日常」という土壌があってこそ、そこに素
晴らしい草花も咲くことができる。永遠に日常が繰り返され
るということは、また何度でも新しく始められる、というこ
とを意味しているのかもしれない。
 大地に蒔かれた種から、やがて新しい芽が息吹くように。

 平凡でありふれた毎日の繰り返しの中で、なにかの拍子に
この映画『ソラニン』に出会うことがあったら、ぜひ一度観
てほしい。仮にそれほどお気に召さなかったとしても、それ
はあなたがそれだけ満ち足りた毎日を送っていることの証だ
し、もしも芽衣子の歌声に深く感動して目頭が熱くなったと
したら、それはとても豊かで意味のある体験だと思うからで
ある。   
       
(2010/4/16 天動説:映画批評)


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