【映画批評 過去記事から】
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■制作:CARVE
原作・監督・編集:藤井徹
脚本:若波裕、藤井徹
撮影:芦澤明子
照明:佐久間栄一
音楽:北浦正尚
主題歌:「キセキの法則」soulife
出演:佐藤隆太、菜葉菜、加治木均、梅沢雅彦
山本圭祐、山内洋子、山本政志/遠藤憲一
ある将棋センターで店の権利書を賭けた将棋戦が行われて
いた。勝てば店の借金は帳消しとなるのだが、勝負は劣勢。
やはり人生は変えられないし、変わらないのか…。そんな
逆境下に、「一手で局面を変える男」イッテが現れる。
賭け将棋の一戦に集った人たちが繰り広げるドラマを、ユ
ーモアを交えて快活に描いた短編映画。
d(>_< )Good!!(2010/05/10)
盤上で駒を動かし合い、論理的に相手を追い込む「将棋」
というゲーム(とりわけ駒の裏表をひっくり返すことでその
性質が変わるという独特の仕様)になぞらえたように、人物
の配置や出し入れのタイミングでドラマのニュアンスがくる
くると変化する油断のならない構成。それが徹底的に全編を
貫いているのが本作の面白さ=エネルギーの源泉だ。
ありがちな展開・いわゆるお約束を端から引っくり返し、
脱力感スレスレで二転三転させる緊張感、貪欲に放り込まれ
る細かいユーモア。それらのワククする要素を無駄なく、
ぎゅっと煮詰め、短いショットで巧みに繋ぎ込んだ緩急自
在のスリリングな編集とクール&ビートな音楽が、一時も気
が抜けないハイテンションな面白さを生み出していてとにか
く面白い。
将棋のルールや指し方を知らないと一見何が何だか判らな
いのでは…という心配もまったく無用。実際、その戦況の大
部分は素人目にはほとんど判らない。しかし、透明な盤を真
下から撮ってみたり(両面に文字のある将棋駒ならではのギ
ミック)、決めポーズと光学合成でアニメ風バトルを演出し
てみたり、地味な対局を映画的話術の面白さ=パフォーマン
スで一気に見せてしまう。さらには将棋に全く疎いヒロイン
・歩(菜葉菜)が、その状況の判らなさを「思ったまま」口
にする(観客心理を代弁する)ことで「判らないこと」を全
肯定してしまい、それらをちゃっかりユーモアに転化させて
しまったりもするのだ。
佐藤隆太の飄々とした存在感(大きな体躯の彼が盤の前に
小さく座るという画的な面白さ)や、遠藤憲一のお茶目で憎
めないワルっぷりなど、それぞれの持ち味を遺憾なく発揮し
た演技も絶好調で楽しませてくれるし、子分役・加治木均の
軽妙さと存在感も目を引く。そしてなにより紅一点の菜葉菜
がとても良く、違和感ギリギリまで追い込んだリアリティ豊
かな演技を見せてくれる。「美人マドンナ」でも「可愛いア
イドル」でもない。そういう既成のイメージを無用としなが
らもなお魅力的な存在感を発揮している。作品中、彼女のア
ップが大きく2回あるが、いずれのショットも絶品である。
「流れ者が揉め事を解決してまた去ってゆく」という古典
的なシチュエーションを物語の軸に採りながら、佐藤隆太/
菜葉菜の関係性に無理矢理に恋愛モードを盛り込むことを注
意深く避け、比較的乾いた距離感で二人を捉えた点もきわめ
て適切だったと思われる。それがラストシーンを清々しく感
動的なものとしてあざやかに着地させることに大いに貢献し
ているのではないだろうか。
運命は変わらない、世界は変わらない,そしてワタシも変
わらない…そんな考えでガチガチに行き詰まった局面に、起
死回生の一手を打ち込んでみせるイッテ。その「一手」は絶
対無敵の切り札でこそないが、それは混迷した状況にあえて
一撃を加えようとする「意思」であり、それ自体がひとつの
「変化」のきっかけである。ネガティブな世界にポジティブ
な「一手」を加えていくという試み。あとは何をどう選ぶの
か、という問題だけだ。
エンディングを爽やかに締めくくる Soulifeによるテーマ
曲、「キセキの法則」も必聴。とにかく、理屈抜きに楽しめ
る快作である。
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