【映画批評 過去記事から】
臨場 劇場版■2012年/ビスタサイズ/130分
■制作:東映東京撮影所、東映テレビプロダクション
監督:橋本一
脚本:尾西兼一 原作:横山秀夫
撮影:栢野直樹
照明:大久保武志
編集:北澤良雄
音楽:吉川清之
出演:内野聖陽、松下由樹、高嶋政伸、渡辺大、
   平山浩行、益岡徹、段田安則、柄本佑、
   若村麻由美、市毛良枝、平田満、長塚京三

【映画公式サイト】→


 無差別通り魔事件の実行犯が心神喪失と判定され、無罪判
決を受けてから2年、事件を担当した弁護士と精神鑑定を行
った医師が相次いで殺害される。事件の遺族に疑いの目が向
けられる中、検死官の倉石は死亡推定時刻に疑問を抱き、犯
人は別にいると考えるのだが…
 型破りな言動で捜査員と衝突しながらも、遺体に残された
あらゆる痕跡から、隠れた事件の真相を掘り起こす検死官・
倉石の姿を描く、同名の人気テレビシリーズの劇場版。

d(>_<  )Good!!(2012.7.2 ユナイテッドシネマ札幌6)



 映画は、謎めいた雨のオープニング、衝撃的な白昼の惨劇
に始まり、全編が緻密なリアリティと緊張感に満ちて淀みな
く展開する。
 シリーズのメイン演出も手掛ける橋本監督は、いつものよ
うに奥行きのある画作りと緩急ある骨太の演出で映画を力強
く物語る。単なる「テレビシリーズの映画化」ではなく、そ
の枠の中で何が出来るか、如何に「映画」として再構築する
か。顔のアップひとつとっても無駄のないショットの積み重
ねで、長回しの会話シーンでもドラマがダレることがない。

 内野聖陽の豪快にして繊細な演技と「臨場」初参加の若村
麻由美、柄本佑、平田満、長塚京三、各氏の圧倒的な演技の
ぶつかり合いのドラマも観応え十分で目が離せない。またメ
インの脇や背後にいる俳優にもきちんと目配りされていて、
画面の充実度を高めている。

 動機なき無差別殺人、理不尽な刑法、善意なき人間、苦悩
する被害者遺族、命を巡る葛藤。そして声なき被害者の思い。
 捜査陣、部下、恩師、容疑者、全てのものと対立しながら
も、「拾えるものは根こそぎ拾う」という倉石の揺るぎない
信念は、次第に人々を動かしていく。

 物語終盤、印象的なシーンがある。
 故人が残した最後の声を拾うことだけが自分の仕事、と語
る倉石。おそらく常に「起こってしまった」現実の前から始
めるしかない、ある種の不条理感を抱えている筈であるが、
それに対する根源的な怒りからか、狂気の塊のような殺人犯
・波多野と対峙した倉石は、彼を轟然と殴り倒すのだ。
 この時、誰よりも命の大切さを痛感している倉石の中で一
瞬、殺意に近い「負の感情」が芽生えていたのではないか。
 事件関係者が形こそ違えど、それぞれに内面に抱えている
闇の部分。それに飲み込まれないような強い意志を持つこと
が出来るか否かが「人の道」の分岐点になる。そしてこの物
語も、その闇と葛藤する人々の姿を描いていると言える。
 倉石はかつてない危機の中で、その刹那の闇を振り切り、
人として踏み止まる。映像が物語のテーマとそのドラマを見
事に描き切った瞬間がここにある。

 人として、検死官として「生死の狭間に立つ」ことで混迷
した「事件」と「人の心」を解放する倉石は、ある意味では
邪悪なるものを調伏する超越的な存在といえるかもしれない。
 波多野が「死の影」を振りまく「悪魔」(取調室での彼の
言葉を思い返そう)なのだとしたら、死者の声を「聴く」倉
石は「天使」である。最後の舞台が礼拝堂なのも象徴的だ。
 そしてさらに駄目押しするかのように、被害者の母親の悲
しみを癒して静かに立ち去る倉石は、そのまま何処かへ「消
えて」しまうのである…
 だが、悪魔は滅ぶが、天使は決して死ぬことはない。

『臨場 劇場版』は「犯罪捜査もの」「人間ドラマ」として、
罪と罰、生と死という深遠で重いテーマに取り組みながら、
それをエンターテイメントの枠の中に巧みに織り込んでみせ
た、紛れもない「ヒーロー・エンターテイメント」である。
 そして、一貫したテーマ性と映画的娯楽性が絶妙のバラン
スで両立した、「映像の力」による作劇。これこそ「映画」
の醍醐味であり、本作はまさに『劇場版』と名乗るに相応し
い秀作といえるだろう。
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橋本一   2012鑑賞  
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