【映画批評 過去記事から】
死にたいほどの夜■原題:The Last Time I Committed Suicide
■1997年/アメリカ/ヴィスタサイズ/93分
監督・脚本:スティーヴン・ケイ
原作:ニール・キャサディ(彼の手紙に基づく)
撮影:ボビー・ブコウスキー
編集:ドリアン・ハリス
音楽:タイラー・ベイツ
出演:トーマス・ジェーン、キアヌ・リーヴス
   エイドリアン・ブロディ
   ジョン・ドークレア・フォーラニ
   ジム・ヘイニー



「おい、お前の道は何だい? 聖人の道か、狂人の道か、虹
の道か、グッピーの道か、どんな道でもあるぞ。どんなこと
をしていようがだれにでもどこへでも行ける道はある。
 さあ、どこでどうする?」

(ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』青山南訳より)

 ビート文学の代名詞的存在、ジャック・ケルアックの小説
「路上」に登場するディーン・モリアーティのモデルとなっ
た伝説の男、ニール・キャサディの若き日を描く青春映画。
 キアヌ・リーブス(主人公を振り回す堕天使のような悪友
ハリーを演じている)が、「スピード2」のオファーを蹴っ
てまで出演を希望したという作品である。
 人並みの生活を夢見ながらも、怠惰な暮らしを続けるニー
ル。悪友ハリーとつるんでの気楽な毎日。そんな彼も、ささ
やかな幸せに手が届きそうになるのだが…。

 なんでそうなるの?と見てるこちらが歯がゆくなるほどダ
メな主人公が、良くも悪くも自分の人生の第1部の幕を降ろ
すまでを、ロードムービー的タッチで捉える本作は、画面の
ざらっとした質感、シーンに立ちこめるザワザワしたニュア
ンスが、全編に流れるモダンジャズと相まって、濃厚な味わ
いを醸し出している。とりわけタイトルバックの洒落たタッ
チは必見。

 ケルアックの『路上』は、推敲などの技巧を加えず、思い
つくままひたすらタイプライターを打ち続けて書かれたもの
だが、その躍動感溢れる独特の文章スタイルは、ニールが彼
に送った手紙の文体がヒントとなったといわれている。この
映画もそのスタイルを映画文法に移行して、エピソードをひ
たすら積み重ねていく中で、主人公の等身大の青春の断片が
あくまで客観的に語られていく。

 大してドラマチックなことは起こらない淡々とした毎日。
目的も見つからないままの怠惰な日常。主人公の言動にまる
で感心はできないものの、人生の一部をちょっと切り取って
みれば誰にでもこんな悩みや迷いはあるだろう…と思わせる
この物語(あるいは彼にまつわる二、三の出来事)は、おそ
らく女性にははなはだ不評だろうと思われるが、男性なら思
わず共感を感じてしまう部分があるのではないだろうか。

 ラスト、夜明けとともに一握りの後悔で買った長い旅路へ
の切符。自由へ解き放たれたニールは何処へ行くのだろうか。
(天動説:映画批評)


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