【映画批評 過去記事から】
私は猫ストーカー■2009年/スタンダード/103分
監督:鈴木卓爾
原作:浅生ハルミン
脚本:黒沢久子 
撮影:たむらまさき
照明:平井元
録音:清水修
美術:小澤秀高
編集:菊井貴繁
音楽:蓮実重臣
出演:星野真里、江口のりこ、徳井優、坂井真紀
   宮崎将、品川徹、寺十吾、諏訪太朗、岡部尚
   麻生美代子

 イラストレーターの卵・ハルは古本屋でアルバイトをして
いる猫好きの女の子。寡黙な古本屋の主人とその奥さん、飼
い猫のチビトムたちと過ごす緩やかな毎日だ。時間が許すか
ぎり、野良猫を尾行するのが習慣のハルだが、猫を追いかけ
て町を歩く日々の中で、人の心も色々見えてきて…


d(>_<  )Good!!(2010.3.06)


 世の中には二種類の人間がいる。猫をこよなく愛する人と
そうではない人だ。
 街の中を注意深く見つめると、わりと野良猫を見つけるこ
とが出来るけれど、猫をこよなく愛する人はほぼ、本作の主
人公ハルと同様の行動に出るのではないかと思う。この映画
は、猫の呑気な動きの面白さをはじめ、猫好きにはたまらな
い要素が巧みに盛り込まれた映画だが、もちろん格別猫に思
い入れのない人でも楽しめると思う。
 人の視野に近いスタンダードサイズの画面、デジタルカメ
ラによる長回しなどの機動性とドキュメンタリタッチのショ
ットや、スナップ写真的な暖かみが感じられる画面の質感な
ど、「猫ストーキングの映像化」に見事成功している本作、
「緩さ」とも「まったり感」とも違う独特の空気感が心地よ
い。

 この映画は一言でいえば「猫の映画」である。
 単に「猫が出てくる映画」という一義的な意味だけではな
く、「猫」という存在をモチーフに、人間関係や毎日を暮ら
すことの機微を描くということ。平たくいえば、登場人物を
「猫」になぞらえている(擬人化ならぬ擬猫化)のである。

 ハルが「猫ストーカー」として猫を追いかけ、その生態を
面白がり、ある時には驚き、ある時には思わず微笑むように
劇中の人々の一喜一憂を、我々はスクリーンを介して同じ視
点から同じように観る。(その意味で我々もある意味、スト
ーカーだ)その視点で観てみると、彼らの日常の行動や生活
風景はまさしく「猫」そのものだ。例えば古書店の店番に座
るハルのぼーっとした表情や、街を徘徊し、団子を買ったり
コロッケを買い食いする日常風景。微妙な間合いを取りつつ
接する周囲の人々との関係性。猫仙人、猫に詳しい僧侶らし
き男、恋愛話に目のない同僚、ハルに気がある大学生、古本
屋のご夫婦…。誰も彼もが猫に見えてくる。

 冬装備の衣装でもこもこ(まさに猫そのもの)になった星
野真里のキャラクターも見事に成立していて、彼女が表現す
る過剰さを排した「平熱感」が、その「ストーカーぶり」と
ともに独特のユーモアと情感を醸し出していて、とても好感
が持てる人物となっている。

 物語は、ハルの日常を訥々と(故郷の元カレとのリンゴを
介した電話のやり取りのシーンが、演劇的手法できわめてユ
ニーク)語っていくが、穏やかな日々は「戻って来た一冊の
本」と「いなくなった飼い猫」をキッカケににわかに揺れ動
く。その台風のような出来事の中で、今まで見えなかった風
景がふと見えてきたとき、みんなの「生きていく角度」がち
ょっとだけ変わる。飼い猫の首輪がふいに外れるように。
 ほんのささいなことだけれど「今ここにいるということ」
の大切さに気が付くと、世界はまたひとつ広くなる。袋小路
の先にまだ「隠れていた路」があったことに「猫」のように
気がつくのだ。
 …そして今日もまた、ハルの「猫ストーキング」は続いて
ゆく。
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Name:竹澤収穫



 邦画が中心の映画批評人。
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