【映画批評 過去記事から】
食堂かたつむり■2010年/ビスタサイズ/119分
■制作プロダクション:ミコット・エンド・バサラ/東宝映像制作部
監督:富永まい
脚本:高井浩子 原作:小川 糸
撮影:北信康
照明:渡部嘉
編集:森下博昭
音楽:福原まり
出演:柴咲コウ、余貴美子
   ブラザートム、田中哲司
   志田未来、満島ひかり、
   江波杏子、三浦友和

 失恋のショックで声を失った倫子は田舎へ戻り、小さな食
堂を始めることに。決まったメニューはなく、お客様は一日
一組だけの小さな店だが、倫子の料理は、食べた人の人生に
小さな奇跡を起こしていく。そして小さな頃からギクシャク
としていた母・ルリコとの距離も縮まろうとしていたが…。

d(>_<  )Good!!(2010/2/26)


 小さな食堂が起こす小さな奇跡の物語…というストーリー
紹介だけを鵜呑みにして観ると、思い切り背負い投げを喰ら
わされる、脱・予定調和な映画。でも、そこがきわめてユニ
ークで面白い作品だといえる。

 開巻、いきなり柴咲コウ演じる倫子が土まみれで畑を掘り
返している、という意表を突くシーンから始まり、いきなり
歌とアニメーションで主人公の境遇を語るという荒ワザに度
肝を抜かれる。このままこんな調子で進むのか…と内心ハラ
ハラしながら観ていくと、主人公・倫子とその母・ルリ子と
の乾いた日常風景がするすると展開。ペットのブタと語り合
うシーン(ラストに至る流れを考慮すればこのシーンの演出
はもっと考慮されるべきだったと思うけれど)とか、村のラ
ンドマーク・おっぱい山の風景など、やや奇天烈なモチーフ
が次々と登場して、こちらの思い込みを端からぱたぱたと覆
していく。そうかと思えば、村の自然の風景や空気感を鮮や
かに活写したり、複雑な心理描写に鋭く斬り込んでみたりし
て、気を抜いてうかうかと観てはいられない。

 ここにいたって、この映画は「一冊の絵本/おとぎ話であ
る」ということに気がつき、一切が腑に落ちる。そういう角
度からあらためて観てみると、すべてのエピソード・その語
り口、イメージがきわめて「童話」的なものとして立ち上が
ってくる。(森で「熊さん」に出会う、というのは確信犯的
な仕掛け?)一見唐突なイメージ展開も絵本のページを開い
たときのあのインパクトと同様のものとして見えてくる。

 本作の主題である料理シークェンスは、映画における数多
ある料理/食事シーンの中でも、味覚や空腹感を刺激する力
において秀でているといえる。確かに、見た目にいかにも食
欲をそそるという料理ばかりではないし、料理シーンも実に
淡々と(ここにこそイメージ力を展開して欲しかった気がす
るけれど)進む。しかし、ここでは作るシーンと食べるシー
ンがつねに対等で、「料理」は作る人と食べる人との関係性
である、という至極当たり前のことがしっかり描かれていて
好感が持てる。客が料理を食べるシーンの官能性(美味しそ
うに食べるということ)によっても裏打ちされているのであ
る。
 
 さて、ひとつ本作の注目点と感じたのは「音響」だ。
 主人公が「話せない」という設定は、本作における重要な
「音」の欠如を意味しているが、その抜けた穴を埋めるが如
く、日常の何気ない生活音や自然の音が細かく繊細に捉えら
れている。(そういう意識で観ていたせいもあるが)
 それは逆に音のないシーンを効果的に見せることにもなり、
比較的多くはないセリフひとつひとつが、より際立って聞こ
えることにもなる。(映画のキーワード「美味しい」「美味
しかった」というセリフに注意)

 なかなか油断のならない本作ではあるが、一方でドラマ
的に取りこぼしている部分も多く(例えばかつての同級生ミ
ドリの関係)イメージや回想の挿入など技巧が際立つ分、監
督の観せたかったものと観客の観たかったものの食い違いが
ドラマを宙づりにしてしまい、全体がアンバランスな感じを
受けるのも否めないところ。全体としては面白いと思えるだ
けに、構成的な煮込み不足が目立って、非常にもったいなか
ったと思う。

 クライマックス、ドラマはシュールなテイストを加味しつ
つ、一気に現実的な方向へ転回していきます。「おとぎ話」
からの離脱宣言のようなラスト、おそらく本作最大のシュー
ル性と寓意性に満ちた「ハト」のシーンは、倫子の人生リス
タート宣言でもあり、食べる事=生きていく事をズバリ描い
てしまった大胆にして挑戦的なシーンとして印象的。
 
 嬉しくても悲しくてもお腹は減る。お腹いっぱい満たされ
たら生きるチカラも湧いてくる。
 それにしても日々の生活の中で「おいしい」と思える事は
なんて幸せなことなんだろう。幸せはいつでも自分にいちば
ん近いところにあるのではないか、そんなことを考えてこの
映画を観ていたら、とても腹が減っている自分に気がついた
のだった。    (2010.2.26 天動説:映画批評)
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