【映画批評 過去記事から】
タイヨウのうた■2006年/ヴィスタサイズ/カラー/119分
監督:小泉徳宏
脚本:坂東賢治
撮影:中山光一
照明:武藤要一
編集:三條知生
音楽:YUI、椎名KAY太
出演:YUI、塚本高史、麻木久仁子
   岸谷五朗、通山愛里、山崎一


 太陽の光を浴びる事の出来ないXP(色素性乾皮症)とい
う病気である薫は、学校にも通えず、唯一の生きがいは夜の
駅前広場でギター片手に路上ライブをすることだった。そん
なある日、いつも遠くから眺めていた孝治という青年と言葉
を交わしたことから二人は急速に親しくなっていく。
d(>_<  )Good!!(2010/2/17)


 難病を抱えながら懸命に生きる少女の恋、という主題を扱
いながらも決して悲壮感に訴えたりしない、ポジティブな青
春映画。いわゆる難病ものにありがちな、闘病生活にまつわ
る喜怒哀楽を感動的に描くという定番スタイルを排し、常に
前向きでひたむきに生きる姿がきちんと描かれているところ
に好感が持てる。
 何と言ってもシンガーソングライターであるYUIの、既
成の俳優にはない素直な表現と存在感の際立った魅力が素晴
らしい。浮き足だたない台詞、無理をしないがゆえに微妙な
揺れが映える表情が、いずれも秀逸。何気ないワンショット
が彼女の魅力でざわめき立つのが感じられる。
 本作中でも披露される素晴らしい歌唱力、その圧倒的なエ
ネルギーが、映画にさらなる力と豊かさを付与してくれてい
るのも本作の大きな魅力のひとつ。ギターを弾く姿、そして
唄う姿、そこにはまぎれもなく、生命力を感じさせる映画的
な「活劇性」が顕現している。

 必要最小限に絞って配された彼女をとりまく登場人物、素
朴で自然体な好漢・孝治役の塚本高史、ちょっとユニークな
父親を演じる岸谷五朗、しっかりの母・麻木久仁子との日常
のやり取りも、ユーモアに溢れていると同時に、過剰さを排
した穏やかなトーンに統一され、その演技のアンサンブルが
彼女の存在を優しく包み込み、ドラマ全体ををふんわりと和
ませる。

 もうひとつの本作の特徴は、全体的に独特の「距離感」が
保たれているということ。太陽の光を直に浴びる事が叶わな
い薫は、太陽の動きに対して誰よりも敏感であり、その「距
離」を物理的に一定に保たねばならないという関係性にある
が、それが象徴するように、この映画世界においては「関係
性」と「距離感」が左右の車輪として連動している。

 冒頭、窓から孝治の姿を追う薫、親しくなっていく過程に
おける二人の距離の変化、初告白するために踏切まで孝治を
追いかけるシーン、スクーターの後ろに座る薫、路上ライブ
での演者と観客としての距離など、むやみにお互いの中に踏
み込まない誠実さ、恋愛ものだからといって、べたついた関
係性を持ち込まず、家族の関係、友人の関係などすべてに節
度があり、それでいてよそよそしくないバランス感覚。その
距離の取り方の中から、ざわめく心情の揺れが表現され、引
いてはこの映画全体のリアリティとなって結実していくので
ある。
 常にまわりと一定の距離を保つ薫。それは人間不信等とい
うものとは違う、人としての奥ゆかしさであり、彼女なりの
「かっこよくない優しさ」でもある。ラスト、最大の逆境を
迎える彼女は、その「歌の力」で「再び」活き活きと輝き出
す。恋い焦がれていた、あの晴れ渡る空、あの太陽の下で。
 そしてみんなの心の中で。
 誰かが「心に残る良い映画」を求めているなら、この作品
をまず手渡してあげたいと思える、そんな良作である。
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