【映画批評 過去記事から】
ハッピーフライト■2008年/アメリカンビスタ/103分
■制作:アルタミラピクチャーズ
監督・脚本:矢口史靖
撮影:喜久村徳章 特撮:佛田洋
照明:長田達也
編集:宮島竜治
音楽:ミッキー吉野
出演:田辺誠一 綾瀬はるか、時任三郎、寺島しのぶ
   吹石一恵、田畑智子、中村靖日、肘井美佳
   平岩紙、長谷川朝晴、田中哲司、森岡龍   
   宮田早苗、いとうあいこ、田山涼成、江口のりこ
   笹野高史、岸部一徳

 成田発・ホノルル行きのチャーター便NH1980。機長
昇格の合否がかかっている副操縦士の鈴木、その試験教官の
原田、フライト経験10ヶ月の新人CAの斉藤、厳しいこと
で有名なチーフ・パーサー山崎ら乗員と多数の乗客を乗せた
機は多くの空港関係者たちに支えられて成田を離陸するが、
コクピット、キャビンともに問題が続出して…。

 安全快適な空の旅を提供すべく奮闘する旅客機の乗員、空
港職員たちを描く、とびきり楽しいコメディ映画。
 ANAの全面協力のもと、約2年に渡る綿密な取材をもと
に練られたという脚本は、ありがちな「恋と仕事の業界ドラ
マ」ではなく、とある日のフライト一本に限定して、その舞
台裏ではどんな仕事が行われ、どんな苦労があるのかを多彩
なエピソードの積み重ねでみせていくと同時に、空港で働く
人々や利用する人々の喜怒哀楽を表情豊かに描き出す。
 とにかくよく整理された脚本と、抑制の効いたセンスの良
い演出が素晴らしい。

 大西洋上空の旅客機内では狭い限定空間(定点的なコクピ
ット、あらゆる仕事を全部こなす集中的なギャレー、縦方向
にのみ移動可能な変則的な舞台であるキャビンなど、ちょっ
とした空間移動そのものが面白いアクションとなる)を有効
に使ったシチュエーションコメディを、一方の地上(空港)
ではわりあいシリアス寄りなタッチでドラマが展開。機内・
空港・管制塔・整備班、それぞれが醸し出す空気感の差がメ
リハリとなって、ショット内の人物の、ちょっとした瞬間の
表情や仕草がとても活き活きしていて全編片時も厭きさない。

 作品全体はクラシックなハリウッド風スタイルに似た大ら
かさに、ユーモアと笑いをふんだんに盛り込みつつ、クライ
マックスには「航空パニック映画」的要素もプラスしての大
盤振る舞い。
 映画の劇中の「乗客」と映画を観ている劇場の「観客」が
共に「座席に座る」という相似形となっている構造的な面白
さが一層の臨場感を生み出していて、一種の体感ムービーと
言っても過言ではないだろう。

 旅客機と空港めぐる群像劇である本作は、多彩な俳優陣の
競演も観どころで、キャストも隅々まで豪華。
 まず注目は新人CA役・綾瀬はるかのキュートなコメディ
エンヌぶり。観る目にも心地よく、笑って泣いて一生懸命な
その姿は愛くるしくて魅力いっぱい。同じくコメディにばっ
ちりハマってみせる田辺誠一はちょっと間が抜けていて、で
も憎めない等身大なキャラクターを好演。クールで手厳しい
試験官・時任三郎、空港内を駆け回るグランドスタッフ・田
畑智子の奮闘ぶりとほのかな恋愛、厳しいと評判のチーフパ
ーサー・寺島しのぶが見せる誠実さ。仕事に一喜一憂を繰り
返す整備士・森岡龍、コントロール・センターの岸部一徳と
肘井美佳のエピソード、いつもながらクールにキメてくれる
管制官役・江口のり子、笹野高史をはじめとする個性的な乗
客の人々など、それぞれのアンサンブル、絶妙の掛け合いが
ドラマを盛り上げる。

 そして忘れてはいけないのが、ジャンボジェット機NH1
980便の存在。メインキャストを乗せた「舞台」でありな
がら、地上からみた場合は相対的にひとつのキャラクターと
なっていて、そのフライトの様子は、実写に加えて見事なS
FX/VFXで存分に描き出さる。機体トラブルや悪天候に
見舞われながらも、懸命に飛び続けるNH1980便の「奮
闘ぶり」も必見である。

 続発するトラブルをあの手この手で乗り越える様子が、笑
いとサスペンスを交えて展開されるが、無事目的地に到着す
る、というハリウッド映画的「ファンタジー」ではなく、安
全のためには引き返すことをも辞さない「現実性」に立脚し
た上で構築された作劇、コメディというジャンルに甘えない
真摯な姿勢が映画を豊かなものにしています。

 ひとつのフライトが終わり、また次の便が離陸してゆく。
大小さまざまなトラブルに、日々奮闘する空港の人々。そこ
を通り過ぎてゆく沢山の人たち、それぞれの思いを胸にひと
とき時間と空間を共有して昨日から今日、今日から明日へと
日々続いていく営み。
 飛行機は皆のために、皆は飛行機のために。そんな愛すべ
き「彼ら」に思いを馳せる時、心の「ハッピー・フライト」
がまた続いていくのではないだろうか。
                    
(2009.11.23 天動説:映画批評)


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