【映画批評 過去記事から】
ゼロの焦点■2009年/ヴィスタサイズ/2時間11分
■制作:東宝映画
監督:犬童一心
脚本:犬童一心、中園健司 原作:松本清張
撮影:蔦井孝洋
照明:疋田ヨシタケ
編集:上野聡一
音楽:上野耕路
出演:広末涼子、中谷美紀、木村多江
   杉本哲太、西島秀俊、鹿賀丈史


 結婚式から7日後、行方不明となった夫の消息を追って、
金沢へと旅立った妻の禎子。その捜索の過程で起こる連続殺
人事件。事件の被害者はすべて夫・憲一に接点がある人物だ
った──

 瞬間的に明滅する光のイメージ。まず映画の冒頭、ピント
が合わないままストロボが焚かれる結婚写真、禎子が夫の消
息を追って訪れた金沢で体験する冬の落雷、そしてクライマ
ックス、真実を悟った禎子が佐知子と対峙する会見場に閃く
カメラのフラッシュ。この「光」のイメージは劇中人物たち
の「その後の運命を暗示する予兆」であると同時に「戦後日
本」(あるいは戦争の記憶)のメタファーなのではないかと
思う。不自然に強すぎる光が、濃すぎる影を人の心に作って
いた時代。人々が正のイメージとしての「光」を心に取り戻
そうとしていた時代の物語。

 思いもかけず事件に巻き込まれてしまう主人公・禎子は被
害者であり、探偵であり、その依頼人でもある一方、「物語
の語り部」でもあり、物語の進行上では常に「訪問者」(そ
の意味では本作はある種のロードムービーといえる)である。
 夫の失踪の謎を追う過程は、さらに次の事件を呼び、人々
の過去の記憶と真実を次々に明らかにしていく。
 そのアンバランスに揺れる禎子の不安な心情をがうまく描
かれていて、ドラマの進行に沿ってそれぞれの要素が混然一
体となっていく点が面白いところ。
 本作では日本映画界が誇る三人の女優の共演も話題のひと
つで、広末・中谷・木村、それぞれが役者としての「持ち味
=個性」のリミッターを解除して、渾身で役柄を演じ切り、
その生命感あふれる姿は素晴らしく、それぞれの醸し出す情
感が、映画という空間で激突スレスレの周回軌道で交差し合
う様は、スリルとサスペンスに満ちていてきわめて感動的。

 クライマックスの列車内の謎解きシークエンス(知らず知
らずのうちに安楽椅子探偵と化している禎子!)では、現実
の出来事を同時進行させる巧みな演出・編集が、映画ならで
はのダイナミズムで畳み掛けるように物語を語り尽くし、一
気に吹き出す人々の感情のエネルギーをも巻き込んで、まさ
に圧巻。とはいえ、本作では犯人探し・事件の謎解きそのも
のより、犯罪事件を通して「戦後の日本と日本人」をを深く
描き出すところにより重点が置かれ、女性の地位や名誉がま
だ低く、男性が勝手な理屈と傲慢さとで時代を牛耳っていた
頃の軋みや歪みを、登場人物たちの言動が明確に暴き出すと
いう意味においてこそ、優れてミステリー的であると言える。

 時代の転換期であった昭和30年代、ただ、愛する人にそ
ばにいて欲しかった。未来に向かって明るく笑っていたかっ
た。そんな当たり前の幸せを求めて叶わなかった人々の物語
は、その気持ちが純粋であるがゆえに、観る者の胸を激しく
切なく打つ。やむにやまれぬ人生、誰もが本当は心優しくて、
愛すべき存在だったことに気がついたとき、人は躊躇なく泣
けるのではないだろうか。

 「いつから」が戦後で「いつまで」が戦時下なのか。「い
つから」時代は新しくなり、「いつまで」人々は苦しまなく
てはならないのか。「機関車」から「新幹線」へと文化・文
明が変わっても、問われていることはいつも同じである。                   

(200912.4 天動説:映画批談)


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