【映画批評 過去記事から】
BALLAD■2009年/シネマスコープサイズ/2時間12分
■制作:ROBOT VFX:白組
監督・脚本・VFX:山崎 貴
原案:映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』
  (原作:臼井儀人/監督・脚本/原 恵一)
撮影:柴崎幸三 照明:水野研一
美術:上條安里 編集:宮島竜治
音楽:佐藤直紀
出演:草彅 剛、新垣結衣、武井証、大沢たかお
   夏川結衣、筒井道隆、吹越満、吉武怜朗、波岡一喜
   菅田俊、小澤征悦、斉藤由貴、香川京子、中村敦夫

 少年・川上真一は、不思議な夢に誘われて1574年の戦国時
代へタイムスリップし、春日という小国で「鬼の井尻」と恐
れられる侍・井尻又兵衛の窮地を救う。
 春日の国の姫君・廉姫を密かに想いを寄せる又兵衛は命懸
けで姫を守り続けていたが、婚礼の申し入れを断られた隣国
の主・大倉井高虎の怒りを買い、両国の間に戦が始まってし
まう…。

 デビュー作『ジュブナイル』以来、山崎貴監督の作品の重
要なモチーフである『時間』が今回もストーリーの軸に置か
れていて、原作を見事に換骨奪胎した独自の作品世界を構築
しています。ロケーション、美術セットの素晴らしさにVF
Xを駆使した戦国の風景の再現はさすがの出来映えで、まさ
にタイムスリップしたような感覚。
 歴史考証を重視した合戦シーンも、意外な戦の作法や戦術
合戦などがとても面白く、シネスコサイズの画面ならではの
迫力、臨場感のあるダイナミックな撮影も素晴らしく、城壁
を挟んでの攻防戦や、敵陣での激突、クライマックスの又兵
衛対高虎の長回しの決闘シーンなど実にスリリングで圧巻で
す。
 カメラや携帯など小道具の使い方のセンスの良さも監督な
らでは(手紙を書いている真一が筆をスピンさせるシーンは
秀逸)だし、タイムスリップシーンにVFXを使わずに編集
だけで見せる(過去と現代の境目の意図的な消去)ことで物
語のテーマ性や物語のリアリティを持続させている点にも注
目です。

 草彅剛さんは予想以上に豪快で男っぷりのいい演技を披露
してくれて、平時での穏やかさと戦いの中で見せる勇猛さの
メリハリが巧みで、剣や槍、弓などの殺陣も遜色なく見事。
 対する新垣結衣さんは、これほどお姫様が似合う女優さん
も他にいないのでは、と思わせる可憐さと凛々しさで、まさ
にハマり役。感情表現の微妙なニュアンスが良いです。

 武井証くんは、オリジナルで言うところの「しんちゃん」
役ですが、自然で素直な演技が好感をもてるし、しんちゃん
が持っていたキャラクターの本質的な部分も、演技の中に上
手くトランスレートしていて納得です。筒井道隆さんと夏川
結衣さん、吹越満さんと斉藤由貴さん、それぞれの夫婦が見
せるコンビネーションの良さ、少年侍の吉武怜朗くん、野武
士コンビ・波岡一喜さん、菅田俊さんの存在感も魅力的。
 敵大将・大沢たかおさんのギラリと鋭い演技とその威圧感
は単なる悪役という枠に収まらない親近感を呼ぶし、姫を静
かに見守る香川京子さんの美しさと、人生の機微を感じさせ
る微妙な感情表現なども素晴らしいです。

 全体的に、オーバーアクションを避けたナチュラルな演技
がリアリティを感じさせ、戦に臨む前夜の人々の描写におけ
る、文四郎を見つめるお里の親御心や、皆でかわるがわる記
念撮影をするシーンに溢れている情感など、静かに通い合う
心模様が実に感動的で胸が熱くなります。
 また、又兵衛の立ち振る舞い、高虎が最後に見せる潔さ、
野盗だった彦蔵と儀助が性根を入れ替える件など、きっちり
描かれている武士道精神の素晴らしさは現代社会と比較して
なんと気高く見えることでしょうか。

 姫と又兵衛の恋は、悲恋ではあるけれど、そこに暗さや絶
望は一切ありません。それは、たとえ束の間であれ、恋した
人と互いに気持ちが通じた確かな証が得られたことによるも
のでしょう。限られた状況の中で生きていく戦国の人々の想
いは、現代のそれとは比べ物にならないくらい深く、それこ
そ一生懸命に、与えられた時間を生きることであり、その意
味で又兵衛にも廉姫にも悔いはなかったのではないかと思い
ます。

 確かにそこに生きていた、という証を得たいと願うのが人
であり、その気持ちは遥か時空を超えていきます。運命が避
けられないものだとしても、人の想いだけはきっと届く。人
が人を想う気持ちはそれ自体が強さなのだというメッセージ
が映画全体に流れていて、深い感動がじんわりと胸に沁みま
す。 
 ラスト、自転車を走らせる真一の雄叫びもまた、「名もな
き」想いのひとつの現れであり、それはきっとまた誰かに届
くのでしょう。

(天動説:映画批評)


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