【映画批評 過去記事から】
ニワトリはハダシだ■2003年/ヴィスタサイズ/114分
監督:森崎東
脚本:近藤昭二、森崎東
撮影:浜田毅
照明:長田達也
編集:川瀬 功
音楽:宇崎竜童
出演:浜上竜也、守山玲愛、肘井美佳、加瀬亮
   原田芳雄、倍賞美津子、塩見三省、余貴美子
   柄本明、岸部一徳、石橋蓮司、李麗仙ー

 少年・サムは15歳。知的障害を持ちながらも、周りの人々
に見守られながら元気に暮らしている。人並みはずれた記憶
力を持っているサムは、偶然にも警察官僚の汚職事件に関す
る裏帳簿を丸暗記してしまい、事件に巻き込まれる羽目に。
 サムを犯人に仕立てようと目論む人々から守るため、両親
や養護学校の教師、刑事たちが身体を張って立ち向かってい
く。

d(>_<  )Good!!(2009/09/29)


 日本海に面した小さな港町を舞台に繰り広げられる群像劇。
 主人公の少年と、彼を囲む人々のそれぞれのドラマがモザイ
クのように散りばめられ、最初はバラバラだった人間模様が、
ストーリーの進展とともに気付かないうちにパズルのピースの
ようにつながり、次第に大きな物語を紡ぎ出していく小気味良
い展開。さりげなく画面に映し出される伏線やエピソードを巧
みに組み合わせていくオリジナル脚本と骨太な演出の素晴らし
さには惚れ惚れします。
 戦後の歴史や差別問題、社会の歪んだ部分への言及を適宜挿
入するメッセージ性も含みつつ、笑いで軽く茶化してしまう軽
妙なセンスや、時折挟み込まれるストレンジな表現など見逃せ
ないポイントも多いです。
 舞鶴という「水の町」のビジュアルも画的にすごく面白いし
町の情景や何げない人々の日常風景が、すごく自然で奥行きの
ある映像として押さえられているのは、撮影・照明・美術とい
ったスタッフワークの素晴らしさの賜物でしょう。

 また、この作品の面白さの一つには、登場人物たちの魅力的
な描かれ方があげられます。とにかくみんなバイタリティにあ
ふれていて、フレームいっぱいに活き活きと動き回る姿は、観
ているだけで楽しくなるし、権力によって抑圧される側に対す
る、作り手の目一杯の共感と愛情が感じられます。とくにクラ
イマックスで、それまでのキャラクターたちの感情が次々と発
火して誘爆していく様は、その思いの強さが十二分に画面に描
き込まれていて、血が騒ぐような迫力と面白さです。
 それを演じる俳優陣の見事なアンサンブルも観どころで、サ
ム役の浜上竜也くんとその妹役・守山玲愛ちゃんの愛らしさや
原田芳雄さん・倍賞美津子さんの人間的な迫力と貫禄、狂気に
近い塩見三省さんの悪っぷり、状況に振り回されながらも懸命
に奮闘する加瀬亮さんのリアリティある存在感、肘井美佳さん
のしっかりした演技と魅力的な表情等々、一人一人の人物に血
が通った生命力が感じられます。

 本編中、象徴的な映像として「祭り」のショットが何カ所か
ありますが、具体的にドラマ内にも小さな祭り(サムの家での
誕生日パーティーや夜の居酒屋、養護学校のシーンな、冒頭の
潜水シーンや銭湯でのやり取り等)が描かれています。これら
のイメージから、映画全体を「祭り」というキーワードで表現
することも可能ではないかと思います。
 間違いなくそこに存在しながら、その実体がなかなかつかみ
きれないモノ、様々な人の思いや感情の迸り=エネルギーの総
体を描くこの作品自体が、「祭り」の本質的な部分と共鳴する
(事件解決後、画面にふと流れる寂寥感は、祭りの後の静けさ
に似ている)もので、映画全体を俯瞰で見れば、登場人物たち
がそれぞれの「厄落とし」をし、次なる「豊穣」を願うという
根源的な意味において「祭り」と劇中の「事件」とは同義であ
り、この作品の面白さ、エネルギーの源泉は「祭り」に魅了さ
れる心の中にこそある、というのはあながち間違っていないの
では…と思います。

 この作品は、雑多な魅力をごった煮にしたようなところがあ
って、ジャンルに区分けすることも難しいし、また、そこにあ
まり意味はないような気がします。ここにあるのは、まるごと
ひとつの「世界」であり、単に「泣けた、笑えた」というよう
な作為的な感動ではない、まるごとひとつの「生きている」感
動そのものです。目に見える「映画」という枠を突き抜けて、
見えない何かが確かに感じられる体験。
 もしこの豊かさを享受できない人がいるとするならば、それ
はいささか不幸なことのような気がします。

(天動説:映画批評)
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