【映画批評 過去記事から】
刑事物語■1982年/ヴィスタサイズ/109分
■製作:キネマ旬報社
監督:渡邊祐介
脚本:渡邊祐介、武田鉄矢 原作:片山蒼
撮影:矢田行男
照明:大西美津男
編集:小川信夫
音楽:青木望
出演:武田鉄矢、有賀久代、田中邦衛
   樹木希林、小林昭二、花沢徳衛、草薙幸二郎
   西田敏行、高倉健


 博多署の刑事・片山元は、風俗店のガサ入れ失敗のとばっ
ちりで転属を命じられ、事件で知り合った聾唖の風俗嬢・ひ
さ子の身柄を引き取って静岡へ向かう。南沼津署に赴任した
彼は、そこで連続殺人事件の捜査に加わる事になるが…

 ふらりと現れた流れ者が、その土地で困難な事件を解決し
てまた何処かへ流れていく…というのは映画のオーソドック
スなプロットのひとつだが、この作品はそれを有効的に活用
した好例かもしれない。
 見た目は冴えないが実は拳法の達人である刑事・片山が、
赴任先(※実際には刑事が都道府県を越えて転属することは
ないそうだが)で難航する連続殺人事件の捜査をするという
ストーリーと、片山とヒロイン・ひさ子の過去と現在のドラ
マとが平行して描かれていくが、この2つのラインがやがて
分ち難く融合していく脚本、日本人的な叙情性を色濃く盛り
込みながらも、ありがちな人情ドラマに足を掬われることの
ない作劇が心地良い。

 本作での最大のセールスポイントは、やはり武田自身がス
タントなしで挑む中国拳法・蟷螂(とうろう)拳だろう。
 実際に鍛錬を積んだ肉体から生まれる本物のアクションに
はリアリティがあり、純日本人体型の武田の身体性とのギャ
ップの面白さが、映画全体にもしっくり馴染んでいて、今観
てもオリジナリティが高い。話題となったハンガーヌンチャ
クも、日常どこにでもあるハンガーを非日常である戦闘シー
ンに持ち込むというアイデアが秀逸。しかも状況からくる必
然性(これ見よがしな使い方をしていない)があるので、コ
ミカルなイメージよりは断然カッコ良さが前面に出ている。

 本作のカメラワークは、ほとんど定位置から動かない長回
し撮影が多用されていて、ショットの組み立ては極めてオー
ソドックスで、作品の雰囲気にぴったりだが、このスタイル
は意外にもアクションシーンにも踏襲されていて、一連の格
闘の流れをワンショットで追うため、画面に否応なしの緊迫
感が生み出されている。
 その一方、全体的にシーンの余韻を途中で断ち切ってしま
う、ぶっきらぼうな編集が目立ち、シーン尻がもう少しあれ
ばスムーズにつながったのではないか…と思う。

 改めて観てみると、片山刑事のキャラクターが類型的な設
定からかなりはみ出しているのも特徴的。刑事としての正義
感は持ちつつも、私怨が先走って暴走したり、敵地に乗り込
む同僚の刑事に対して(同時に自分に言い聞かせるように)
「憎む心は人の力は何倍にもする」と語る、その裏に隠され
た複雑な心情、密かに気持ちを寄せていたひさ子に対する不
器用な接し方など、感情の整理が不得手でちょっと屈折した
人間くさい役柄を武田が堅実に演じ込んでいる。
 
 仕事の上でも恋愛の部分でも「定住」できない片山は日本
中を転々とする(作品的にもこの後、全5作のシリーズに)
ことになるのだが、ラストに流れる吉田拓郎の『唇をかみし
めて』と合わせて、日本映画の数ある「流浪系」キャラクタ
の中でも、忘れ難い印象的なキャラクターといっていいだろ
う。               (天動説:映画批評)


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