【映画批評 過去記事から】
ゼラチンシルバーLOVE■2009年/ビスタサイズ/87分
■制作:ピラミッドフィルム
原案・撮影監督・監督:操上和美
脚本:具光然
照明:石井大和 美術:池谷仙克
編集:丸山光章
音楽:今堀恒雄 主題歌:井上陽水
出演:永瀬正敏、宮沢りえ、天海祐希
   役所広司


【映画公式サイト→】


 若いカメラマンが、ある男からの依頼で美しい女の監視を
始める。24時間向かいの部屋からビデオカメラを回し続ける
うち、カメラマンは彼女に興味を抱き始める。

 男は、他者との積極的な交わりを避けながら(存在しなが
ら客観的には不在)、一方でカメラやビデオカメラのファイ
ンダー越しに被写体を見続け、あるいは映画のスクリーンや
モニターの中の誰かを見続ける(不在でありながら主観的な
存在)という、やや屈折した人物。「美しいと思えるもの」
を求めながら、目立たない静物や風景ばかりを撮っていた彼
が、「仕事」として「見続ける」ことを強いられた謎の女。
 その「美しさ」に取り憑かれたように、カメラを向ける行
為はやがて愛情の表現へとスライドしていきますが、観られ
る女と撮る側の男の距離が次第に近づいていくことで、現実
と幻想とが互いに相殺し合い、その結果、ある「事実」に気
付いた彼は、自分の「砂漠の虫」としての運命を悟ります。

 ラストで逆転する「観る側」と「観られる側」の関係。カ
メラのシャッターと銃火の瞬き、その一瞬の邂逅は、それぞ
れの「美しいもの」をお互いが共有した瞬間であり、男にと
っては直接的に女を撮ること=自らの「愛」の完結でもあり
ます。しかしそれは、その瞬間にしか共存不可能なものであ
り、幸福に満ちて「消え行く」者と、刹那の後悔と戸惑いの
中で、独り「去り行く」者を静かに分つ「太陽の光」でした。

 写真家・監督の繰上さんは、人物の皮膚やしわの一つ一つ
までを捉えて、表情はもちろん、その人の内面にまでピント
を合わせたような鮮明なポートレートで有名ですが、映画の
カメラに持ち替えても、そのレイアウト・センスや質感はそ
のまま映画フレームにも活きていて、何げない日常の風景を
克明に撮ったショットや、主人公の部屋での多彩なアングル、
厭きさせない画面構成など、全編無駄がなく素晴らしいです。

 演出上では、ゆで卵を食べるシーンが明解なエロティシズ
ムの暗喩であるのは論を待たないと思いますが、同様に「ビ
デオテープの封を切る」「フィルムを巻き上げる」「ヒゲを
剃る」「酒を飲む」「煙草を吸う」といった行為それぞれに
「観ること」「観られること」と互いに関連し合う「官能性」
が内在している点も見逃せないと思います。

 劇中で主人公が「美しいと思えるもの」をカメラで追い求
めたようにこの映画もまた、余分なものを極限まで削ぎ落と
して、究極の「愛」の形を幻惑的かつ鮮烈な映像で描きだし
た、究極の恋愛映画といえるでしょう。


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