【映画批評 過去記事から】
はさみ■2010年/ビスタサイズ/112分
■制作プロダクション:円谷エンターテインメント
監督:光石富士朗
脚本:光石富士朗 木田紀生
撮影:猪本雅三 
照明:松隈信一
編集:菊池純一
音楽:遠藤浩二
出演:池脇千鶴、徳永えり、窪田正孝
   なんしぃ、綾野剛、石丸謙二郎
   竹下景子 他


【映画公式サイト】→


d(>_<  )Good!!(2012/3/27 蠍座)


「シザーズ(はさみ)は人の働きかけに似ている。上が
動く刃、下が受け止める刃。」(劇中の台詞より)

 人の数だけ悩みがあり、それぞれにその人なりの進む
道がある。映画『はさみ』は、理容美容専門学校を舞台
に、「切る」技術が人と人を「つなげていく」物語であ
る。
 学園ドラマでありながら、ありがちな青春ストーリー
的展開を採らず、ストイックで乾いたタッチの作劇が特
徴的な本作は、腰の据わったカメラワーク、量感と質感
のある映像で、登場人物それぞれのドラマを奇を衒わず
に真直ぐに捉える。また、実際の取材に基づくという脚
本のリアリティ、東京都中野区や実際の理容学校の撮影
協力による生活感のあるロケーション撮影の効果も相ま
って、随所にドキュメンタリ的なニュアンスも感じられ、
その映像の緊張感が作品全体をぎゅっと引き締めている。
はさみ画像
 カットが思うように出来ず、学ぶ意欲を見失いかけて
いる弥生(徳永えり)、コンプレックスを理容の技術で
乗り越えようとする努力家のいちこ(なんしぃ)、家庭
の問題から対人不安になり、なかなか前に進めない洋平
(窪田正孝)。生徒たちはそれぞれが学業と現実との間
で不安を抱えながら、人生の岐路に立たされている。
 同じ学校の教員・久沙江(池脇千鶴)は、技術の向上
だけでなく、生徒たちの精神面もケアできないかと奔走
するが、彼女自身も「教えること」の難しさに、気持ち
が日々揺らいでいる。彼女もまたこの学校の卒業生であ
り、職場の先輩(竹下景子)とは、かつての教師と教え
子の関係だ。

 映画の冒頭、自転車に乗った久沙江の通勤シーンから
この物語は始まるが、「走り続ける限り倒れることのな
い」自転車は、彼女の指導ポリシーを象徴するアイテム
である。今にもドロップアウトしそうな生徒達に「諦め
ないこと」「地道に技術を学び続けることで道は拓ける」
ということを、久沙江は繰り返し生徒に説く。
 そんな久沙江の姿を主軸にして、らせん状にからみ合
いながら同時進行する生徒たちの等身大のエピソードは、
過剰にドラマチックになることを拒むように、きわめて
淡々と綴られていく。その一方で、同じリアリティの中
で「神様の気まぐれ」のような唐突なアクシデントが彼
らを打ちのめしもする。その非情な現実を前に、教師達
も最善の解決策を巡って議論し苦悩する。
 「物語」を成立させるための「公然の作為性」を廃し、
カメラは、物語の「語り手」としてというより「物語」
の中における日常を「記録」する客観的な視点として、
悩みと迷いの中から懸命に再起する彼らの姿を「ありの
ままの事実」として伝える。そして、そこに生じる反作
用が、観るものの内側に一義的な感情移入を越えた強い
「共鳴」を起こし、深い感動を呼び起こすことになる。

 映画終盤、生徒たちの問題に対峙していく中で、どう
しようもない無力感に襲われた久沙江が、パンクしてい
て乗れない自転車を置いて、やむなく徒歩で帰路につく
シーン。前述の「自転車=信念」に重ねるならば、「ア
クシデントで乗れなくなった自転車」とは「無力感から
自信を失いかけている自分自身」のメタファーにほかな
らないのだが、そこで久沙江は、自転車に乗ったかつて
の教え子に偶然再会する。映画はこのシーンで、彼女の
「信念」が、形を変えつつも確実に次の走者に受け継が
れていることを、具体的に明示してみせるのである。
 そのことを悟った久沙江は、以前、教え子の弥生があ
る決意を胸に教室に駆け込んできた時のように、自身も
かつての生徒のひとりとして、恩師のもとへと向かう。
 その力強く反復されるイメージは、「小さな継続は、
大きな継承へとつながっていく」ことを強く示唆してい
る。

 この映画に生徒たちの「晴れやかな卒業」や「歓喜に
わく合格発表」といった目に見える結末はない。誰もが
最終的な「ゴール」ではなく「途中経過」のまま、それ
ぞれの小さな希望と目標を見つけ出す姿が、ささやかに
描かれるだけである。
 しかしそれ故にこの作品は 挫折したり諦めかけたり
する現実を受け止めつつ、それでもなお一生懸命に何ご
とかを続けていくことの意味を、畏れずに真正面から問
いかけているのだとも言えるし、それは登場人物を通じ
て観客に贈られる、誠実で優しい「エール」なのかもし
れない。
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