【映画批評 過去記事から】
父親たちの星条旗■原題:FLAGS OF OUR FATHERS
■2006年/アメリカ/シネマスコープ/132分
監督:クリント・イーストウッド
原作:ジェイムズ・ブラッドリー、ロン・パワーズ
脚本:ポール・ハギス
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス
音楽:クリント・イーストウッド
出演:ライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード
   アダム・ビーチ、ジェイミー・ベル、バリー・ペッパー
   ポール・ウォーカー、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー
   ジョン・スラッテリー



 太平洋戦争の激戦地として知られる硫黄島での戦いで、米
軍兵士たちはその勝利のシンボルとして、摺鉢山に星条旗を
掲げた。その時撮られた1枚の写真によって、米国中から英
雄と讃えられた若者たち。その兵士の1人、ジョン・ブラッ
ドリーは人生最期の時までそのことについて語ろうとはしな
かった。彼は硫黄島で何を見たのか。彼の息子がその沈黙の
理由と真実を辿り始める。

──「第2次大戦に対しては慎重な、イーストウッドという
映画人のアメリカにおけるある種の人格の対応があるのかな
と思ったりします。イーストウッドが第2次大戦の映画を撮
る時がきたら、その時にはようやく20世紀が終わるんです
ね(笑)」
(キネ旬ムック 「フィルムメーカーズ/クリント・イーストウッド」
 座談会「イーストウッドはここにいる!」より)


 第2次世界大戦における最も悲劇的な戦いと言われる「硫
黄島の戦い」と戦争という特異な状況によって人生を左右さ
れてしまった若い兵士たちの心情を、有名な「摺鉢山に星条
旗を掲げる米軍兵士たちの写真」の逸話をもとに描くドラマ。

 観る前は、反戦メッセージが濃厚なシリアス一辺倒の「人
間ドラマ」作品だったら嫌だなぁ…と思っていたのですが、
(そういうタッチの映画が苦手なので)やっぱりそこはイー
ストウッド。いつものように穏やかで的確な演出で淡々とド
ラマを描き出す、見事な作品でした。

 彩度を抑えた色合いに統一された画面、陰影を強調した照
明、「花を手向けるような礼節」を感じさせる無駄のないカ
メラワークが、戦争のためのプロパガンダに利用され、人生
を大きく狂わされてしまった若者たちの苦悩と、戦いの中で
消えていった命、そして彼らを利用する愚かな大人たちの姿
をしっかりと捉えます。映画が冗長になったり、扇情的にな
ったりする愚をおかすことのない(例えば敵対する日本兵の
姿をほとんど直接描かない演出)、常に静かな緊張感(対象
との距離感)を保ちつつ、物語を語り続けていきます。
 
 過剰な演出を避け、無駄なものを排するストイックな姿勢
は、硫黄島の激戦の様子も、今までにない独自のリアリティ
をもって描き出していて、ハリウッド大作と一線を画する、
VFXの必要最小限かつ効果的な使用法や、アクション映画
にありがちな派手な効果を減じた、爆破・弾着テクニックが、
戦場のスケール感と緊迫感を強調。また、特殊メイクによる
負傷や死の描写生々しくリアルに造り出した死体プロップな
ど、戦場の凄惨な情景描写にも怯むことなく挑んでいますが、
ただの悪趣味なハッタリに堕しないのも、この作品に真摯に
取り組む姿勢を表すものでしょう。

 かつて現実に起きた歴史上の事実と、そこに隠された真実。
 戦争からは何も生まれない、という普遍的道徳観だけでな
く、「どんな人にも、それぞれの人生があり、すべての人に
等しく可能性がある」、それを阻むものはいったい何なのか
という命題を、我々に静かに、そして鋭く問いかけるドラマ
が深く胸を打ちます。

 「アメリカ映画を作り直す男」という指摘はよく聞きます
が、ハリウッド映画界に対する、一種のアンチテーゼともい
える作品をカウンターのごとく打ち出してくるイーストウッ
ド、本作では、自国に対しての異議申し立てでもある「戦争」
という重い題材をキッチリ映画として明瞭にまとめてみせて
いて、その軸のぶれない彼流の語り口の誠実さと、演出の一
貫性には唸るばかりです。ラストの清廉な余韻もまた、変わ
らぬイーストウッド印でした。

(天動説:映画批評)


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