【映画批評 過去記事から】
ネガティブハッピー■2008年/シネスコサイズ/1時間49分
■製作プロダクション:デジタル・フロンティア
監督:北村拓司
脚本:小林弘利 原作:滝本竜彦
撮影:小林元
アクション監督:小池達朗
照明:堀直之
編集:伊藤伸行
音楽:高橋哲也 SoulJa
出演:市原隼人、関めぐみ、浅利陽介、三浦春馬
   野波麻帆、板尾創路、新上博巳


 無気力に日々を送る高校生・陽介の前は、ある日、謎の
美少女・絵里と出会うが、彼女は夜な夜な出現してはチェ
ーンソーを振り回す不死身の男との戦いを続けていた。何
故戦うのか理由はわからないが、平凡な日常の何かが変わ
ることを期待して、陽介は絵里の戦いに加勢することに。
「彼女を守ってカッコ良く死ねるなら、それでオールオッ
ケー!」そう思う陽介と、絵理との距離は、日常と非日常
の狭間で次第に近づいていく。しかし陽介の想いとは裏腹
に、チェーンソー男との戦いは非情な最終戦に突入しよう
としていた…。

 奇想天外な着想と、寓話的な物語設定が生み出す新感覚の
青春活劇。派手なアクションにばかりに眼を奪われてしまう
と、作品の真価を見過ごしてしまうことになりますが、丹念
な人物描写で明らかなように、これは普遍的な青春物語を、
現代的視点から巧妙に切り取り、映画的に再構築してみせた
斬新なスタイルの作品だと言えます。当然、青春映画でおな
じみの教室シーンや定番シチュエーションも意欲的に取り込
まれ、その欲張りなバランス感覚も絶妙です。

 映画をちゃんと観ていけば、ここで描かれている「チェー
ンソー男」や「少女とチェーンソー男との闘い」が、主人公
たちが置かれた状況や心の奥底にあるモノのメタファー(暗
喩)であることは明白で、その意味で最初は「事態の傍観者」
に過ぎなかった陽介にとっても、実は大きな意味を持つこと
が次第に判明していくのですが、ここには一種の謎解き的な
面白さもあり、なかなか凝った作りです。

 その反面、前半部分での絵里と陽介との距離が縮まる過程
を、あともう少しだけ、丹念に描いてほしかったことや、シ
ーン尻の処理で情感が薄く感じる箇所が散見される(特にア
クションシーン終わりでは、意図的なものは理解出来るにせ
よ、どうしても肩すかし感が否めない)点はものすごく惜し
いなぁと感じます。
 また、この映画の仕掛け(さりげなく散りばめられた描写
や提示されたモノが、後半でどんどん作品を理解する重要な
意味を持つ「パズルのピース」であることが判明し、それら
が次第に埋まっていくことで、最終的に作品の全体像が明確
になる)の醍醐味は、映画を粗雑に見てしまう人には伝わり
にくいかもしれません。

 各ショットで的確に使われるVFXはエフェクトとして抑
制的かつ効果的。アクションシーンでは関さんの切れ味のい
い動きに健闘が光るし、ワイヤーアクション技術の高さも特
筆すべきで、画面にメリハリと迫力を生んでいます。
 同じ構図の反復や、横長のシネスコ画面を無駄にしないレ
イアウト、美術デザイン、セットも素晴らしいと思います。
とくにロングショットの画には、時折ハッとする良い画があ
りました。

 主人公の市原くんはまさに真骨頂ともいうべき独特の存在
感を遺憾なく発揮、対する関さんも微妙な心情のニュアンス
を表現。ある意味この共演も、もうひとつの「戦い」といえ
るかもしれません。
 彼らを囲む登場人物も、主人公とは別の次元でもがいてい
る悪友の浅利さん、ドラマ上は不在ながら重要な位置を占め
る三浦さんはもとより、下宿屋の野波さん、担任教師の板尾
さんの人物描写などステレオタイプに堕しない、深みを感じ
させる設定と腰を据えた演出で、それぞれを映画の中に活写
しています。

 クライマックスは堂々とした展開とシャープなビジュアル
構成で見せる迫力のラストバトル。「勝敗の結果=キャラク
ターにおける作品テーマの完結性」という王道のスタイルも
きっちり踏襲して、物語のラストも実に爽やかです。

 漠然とした不安感、理屈と感情が折り合わないことは青春
時代にはつきものだけど、実はそれは大人だって同じだし、
軽薄に見えた悪友や、うらやましいと思っていた親友も皆同
じ。全部をすっきり解決はすることはできないけど今この一
瞬に守りたいものがある。そこから始めればいいんじゃない
か? 

 …正直、前半部分では「これはもしかすると乗り切れない
かも…」と思いましたが、次第にエンジンがかかって、最後
はすっかり好印象でした。これは「ドラマ上における、主人
公たちの前が見えない感じ」と「映画が持っている説話構造」
が「観ている側の情動」にうまくシンクロした結果ではない
か、と思うのですが、果たしてそれが監督の計算なのか、こ
ちらの深読みなのかは定かではありません。そのどちらにせ
よ、この映画にシンクロできた方は、とても「ハッピー」な
人であろうことは間違いないでしょう。

(天動説:映画批評)


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