【映画批評 過去記事から】
ピンク・スバル■2010年/日本・イタリア/ビスタサイズ/98分
監督・脚本・編集:小川和也
共同脚本:アクラム・テラウィ
撮影:柳田裕男
音楽:松田泰典
出演:アクラム・テラウィ
   ラナ・ズレイク
   ジュリアーナ・メッティーニ
   川田希
   ダン・トレーン
   小市慢太郎
   他


【映画公式サイト】→

 イスラエルとパレスチナの境界の街タイベ。妹の結婚
式を目前に、20年働いてやっと購入した夢の車「スバ
ル・レガシィ」をたった一晩のうちに盗まれてしまった
ズベイルは、なんとしても車を取り戻そうとするが、車
泥棒が日常茶飯事のこの街では、まさに前途多難…。


d(>_<  )Good!!(2012/3/1 シアターキノ)


 本作は、イスラエルと日本との意外なモータリゼーシ
ョン的な関係性を始めに、とかく「戦火の絶えない紛争
地域」というイメージばかりが先行してしまうこの国の
知られざる素顔、素朴さと純粋さにあふれた人々の悲喜
こもごもを、欧米ともアジアとも違う無国籍感が強く匂
い立つ印象的な風景=情景の中から、暖かな目線と新鮮
な角度から躍動的に切り取ってみせる。

 ストーリーは、妹の結婚式までの4日間というタイム
リミットの中、主人公が愛車奪還に至るまでの過程を綴
るシンプルなものだが、アバンタイトルこそ、国の状況
説明から、主人公が念願の車を手に入れ、あっという間
に盗まれてしまうまでをテンポよく描いて、観る者を一
気に引き込むものの、それに続く本編=映画の全体像は
どこか混沌としていて容易に捉え難くなっていく。

 そもそも車泥棒がビジネスとして常態化しているこの
社会そのものがすでに「カオス状態」であり、それが当
人にとっては何よりも重大で「非日常的な事件」である
にも関わらず、それもまたひとつの「ありふれた出来事」
でしかないという不条理感、車を取り返すというその一
念のみで行動するズベイルの右往左往を本線として、そ
こに巻き込まれていく家族・友人・街の人々のそれぞれ
のエピソード、さらには主人公の幻想的なイメージが折
り重なり、まさにゴッタ煮状態の中、その群像劇のエモ
ーションはある部分ではユーモアに反転し、ある部分で
はサスペンスへと変化して、物語はまるでドミノ倒しの
仕掛けのように目まぐるしく展開していく。

 そして終盤、意外な形でスバルが発見される時、それ
までの出来事の断片がパッチワークのように、ひとつに
つなぎ合わされ、あれよあれよという間に「吉本新喜劇」
的なほんわかした大団円へとなだれ込む。そこでは観客
もまた間違いなく、彼らとともにスバルを探し回ったひ
とりとしての安堵感と、小さな幸福感を覚えるだろう。

 全体のカオスな作劇を支える根幹部分は、奇を衒わな
い古典・王道的な構成の上に成り立っていて、アクチュ
アルに現代を描きながらも、観賞後はまるでどこか遠い
昔話の中の不思議の国に迷い込んだような、何とも摩訶
不思議な心地よさを覚える。何らかの教訓を得ようと構
えるより、まずその世界観に浸かりながら、そのエネル
ギッシュで豊かな人々の笑顔を記憶したくなる。
 その意味で、『ピンク・スバル』は、「希望の星」を
巡って繰り広げられる、陰謀も戦いも秘密兵器も出てこ
ない、ポップな「冒険活劇」と言えるかもしれない。
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