【映画批評 過去記事から】
ロックアウト■2008/ビスタサイズ/82分
■制作:on the road films
監督・脚本・編集: 高橋康進
撮影:高橋哲也
照明:守利賢一
音楽:手代木克仁
出演:園部貴一、島田岳、緒方美穂
   宮下ともみ、木村圭作  他

【映画公式サイト】→

 主人公・広は、曖昧な記憶に混乱しながら、ただひた
すら車を走らせている。自分が何者であるのかも定かで
はなく、時折、負の感情に支配されるように、「もう一
人の自分」の幻覚を見る。そんな中、偶然出会った迷子
の少年と思いがけず行動をともにすることで、次第に封
じ込められた記憶と自我を取り戻していく。

 不意に『鍵のかかってしまった部屋』から、如何にし
て彼は解放されたのか。映画『ロックアウト』は、人間
の心の内側を、映画的リアルさで実直に描き出す。
 「日本的」なニュアンスを巧みに抑えた独特の乾いた
映像、必要最少人数の出演者による1対1の緊張感をは
らんだドラマ(いずれも細やかな演技の巧みさが光るが、
中でも少年・慶太を演じる島田岳のきわめてナチュラル
な表情と演技が素晴らしい)、ロードムービー・スタイ
ルでサスペンスフルな物語は、「暴力衝動や猜疑心が生
み出す不幸」という現代的なモチーフに手をかけつつも、
表現方法においては、迂闊にその一線を踏み越えない。
 昨今の邦画が同じテーマで果敢にハードな世界に挑ん
でいく中にあって、そこであえて踏み止まってみせると
いう姿勢は、ある意味とても新鮮で、意表を突かれた感
がある。

 主人公は「自分」の中の無意識に澱む「負の衝動」に
一瞬、支配されることで自我を見失いかけるが、それは
本作の登場人物それぞれの日常の中にも密やかに存在し、
不意に立ち上がってくる。そして、ほんの小さなそのマ
イナス思考のスイッチが作動することで、彼らの「空間」
は息苦しいまでにロックされてしまう。
 車の中、食堂、アパートの部屋、電話ボックス、交番、
胎内…。それらは次元を越えて有機的に繋がる、心の奥
底にある意識のメタファーであり、映画は、その「空間」
に閉じ込められた彼らが懸命に抜け出す(あるいは救い
出す)様子を努めて冷静に、淡々と描写する。

 閉じられた空間を解除=解放するには、誰かが自発的
に何か「言葉」を発しなければならず、またそれを発す
るためには、ある時は強い覚悟が、またある時は勇気や
素直さが、そして打算のない信頼や愛情が必要になって
くる。
 我々の内側に、闇があり、光があり、謎があり、答え
があるという真実。それを肯定した上で、それでも最終
的に人の心を信じる映画『ロックアウト』は、この不出
来合いな世界の中にあって、きわめて誠実で、優しさに
満ちた作品である。
(天動説:2012/3/26 DVD)

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