【映画批評 過去記事から】
アジアの純真■2009年/モノクロ/108分
■制作プロダクション:ドッグシュガー
監督: 片嶋一貴
脚本: 井上淳一
撮影: 鍋島淳裕
照明: 堀口健
編集: 福田浩平
音楽: ken sato
出演:韓英恵、笠井しげ、黒田耕平
   丸尾丸一郎、川田希、澤純子

【映画公式サイト→】


 理不尽な暴力で命を落とした在日韓国人の少女。彼女
を守れなかったことを悔やむ少年。少年は少女と瓜二つ
の妹と出会う。平和の中に埋没し、現状を見て見ぬ振り
の社会に対する怒りを秘めた彼女は少年とともに、発掘
された戦時中のマスタード・ガスを手に入れ、すべての
日本人へ向けた報復行動に出る…

d(>_<  )Good!!(2012/1/19 蠍座)

ピュアなハートが/誰かに めぐり会えそうに/流されて
行く/未来の方へ
    (「アジアの純真」作詞:井上陽水)

 本作は、日本人全員の横っ面を張り倒すような、「猛
毒」成分入りの青春エンタテイメントである。
 物語の構成要素としては、幾分か政治的なニュアンス
は含みつつも、映画の根幹を成すのは実直な青春ストー
リーそのものである。
 韓英恵の二役による姉妹が、作劇上で巧妙に「入れ代
わる」ことでドラマが大きく動き出すが、その非日常的
な状況に少年が戸惑い動揺しつつ、急展開する運命に巻
き込まれていく姿に、観客はいつの間にか「物語上の同
伴/共犯関係」として同化してしまう。それゆえに韓英
恵の凛々しい表情や言葉の清々しさがより強く鮮明に響
いてくる。

 けっして明朗快活なドラマではないが、終始ぎくしゃ
くした関係の中で互いに迷い悩みながらも、次第に信頼
を寄せていく二人の姿を描く作劇は、ロードムービー・
スタイルと合わせて好感が持てる。その一方で、予定調
和を許さない展開で、観る側の鬱屈した感情を衝撃的か
つ痛快に粉砕するラスト、最後まで映画というエンタテ
イメントに徹するクールな姿勢が素晴らしい。

 究極の罪と罪がぶつかり合う中で、常に見え隠れする
「死の影」をも受け止める二人の青春は、自殺や心中と
いった破滅ストーリーではなく、この世界のデッドエン
ドを突き抜ける冒険譚として、どこまでも加速する。わ
ずかな「武器」と「仲間」とともに繰り広げられる、そ
の説話の「吹っ切れ方」の痛快さは、映画ならではの得
難い感動を生み出す。

 マクロな視点から観れば、理由はどうあれ二人の行為
は無差別なテロ行為そのものでしかない。しかしここで
は、それ自体の是非を問うというレベルでは物語は語ら
れない。劇中、失われる命はニュース報道における「数
字」や集団の中での無記名性という「記号」によって、
ある意味「無責任」に語られる。そして痛みを伴わない
その「事実」は一方的に「事件」という形にパッケージ
され、日常の風景の一部として「消費」されていく。
 その消費者は他ならぬ「あなた」であり「わたし」な
のではないか?
 「無関心」という名の悪意が蔓延する「社会」という
名の巨大な「有機体」が内包する原罪と、毒を以て毒を
制す、断罪という最終手段。一見ありふれたガラス瓶の
中に封じ込まれ、目には見えにくく、定まった形のない
「毒ガス」という形態は、どこか現代の「人間」(日本
人)に似ている。
 すべてが「他人事」という姿勢に対する、行き場のな
い怒りが、若い二人を「世界が変わるにはこうするしか
ない」という空前絶後の「反撃」という刹那的な行動に
駆り立てていく。火花散る閃光のような過激さが、それ
とは相反するナイーブさと共に世界を焦がしてゆく。そ
して同時に、その意志はスクリーンから飛び火するよう
に観客を静かに挑発するのである。

 国の色、時代の色、戦争の色、血の色、この世の全て
の色を均質に塗り替える、モノクロ画面の詩的な映像の
美しさは、違和感なく鮮やかな「色彩」を感じさせると
同時に、「既成の価値観」をいったん「棚上げ」して、
そこに新たな想像/創造の可能性を提起するための「下
地」でもある。
 物語のラスト、人混みで他人の足を踏むような無神経
さと、その程度で滅びかねないこの世界の愚かさを嘲笑
うように咲く「白い花」。映画という虚構の中に放たれ
た真っ白な光の中で、もはや笑うしかない虚無感ととも
にスクリーンもろとも溶けていきそうな気分に陥る。し
かし、共犯者(加害者)としての罪と同伴者(被害者)
としての痛みと共に誰もが胸に「白い花」を咲かさせて
劇場を後にするだろう。白は「純真」の証であると同時
に「静かな怒り」の色でもある。
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