【映画批評 過去記事から】
北のカナリアたち■2012年/ビスタサイズ/130分
■制作:セントラルアーツ
監督:阪本順治
脚本:那須真知子 原案:湊かなえ『往復書簡』より
撮影:木村大作
照明:杉本崇
編集:普嶋信一
音楽監督:安川午朗 音楽:川井郁子
主演:吉永小百合、柴田恭兵、仲村トオル
   森山未來、満島ひかり、勝地涼
   宮崎あおい、小池栄子、松田龍平
   里見浩太朗

 【映画公式サイト】→

 日本最北の島で小学校教師をしていた川島はるは、ある事
故をきっかけに島を去って以来、東京で働いていたが、教え
子の一人が事件を起こしたことを知り、かつての生徒たちに
会うため、20年ぶりに北海道へ向かうことに。一方、先生
との出会いによって合唱の才能を見いだされ、絆を深めてい
た当時の生徒たち6人は、「突然の別れ」を境に、それぞれ
複雑な心の葛藤を残したまま、大人になっていた…

d(>_<  )Good!!(2012/11/20 ユナイテッドシネマ札幌 3)



 本当の気持ちは「言葉」にしなければ伝わらない。伝えた
い気持ち、伝えなくてはいけない気持ちを巡って語られる、
過去と現在を「つなぐ」ための物語。『北のカナリアたち』
はそんな映画である。
 冬の北海道北部の離島を舞台に、少数精鋭の俳優陣の適切
な演技、余計なものを何も足さない的確な演出が、登場人物
一人一人の苦悩と葛藤を浮かび上がらせる。

 無理のない年令設定とはいえ、20年の時間差を違和感な
く演じ分ける吉永小百合はさすがに素晴らしく、かつての教
え子=森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮崎あおい、小池栄
子、松田龍平らのナチュラルな演技がドラマに説得力をもた
らす。さらにベテランの吉永と若い世代をつなぐ役割として
仲村トオル、柴田恭平、石橋蓮司がドラマを盛り上げる。

 この映画では風景寄りのロング・ショット、とりわけ広大
な自然を映し出すパノラマ的映像が頻出し、とかく大仰な印
象が否めないのだが、フレーム内に人物が入った瞬間、どれ
だけカメラが引いていても、あたかもミディアム・ショット
であるかのような感覚を喚起させる。それは、一対一の対話
シーンが多い本作における阪本監督の演出が、「目と目が合
う(気持ちが届く)」距離感を常にフレーム内に感じさせる
からで、それが俳優陣の濃密な演技とあいまって、観客の注
意をぐっと登場人物たちに近づけていく。実際、人物寄りの
ショットになると、画面は風景映像より何倍も力強く、かつ
魅力的である。
 さらには、感情の流れに沿ってショットをテンポよくつな
いでいく普嶋信一による編集の確かさ(阪本監督作品では、
『カメレオン』『行きずりの街』を手がけている)が、時制
が頻繁に切り替わる構成を混乱させず、しかも単調で退屈な
会話劇にならないように、映画全体に骨太な躍動感を生み出
している。

 本作は、ある面で学園ドラマであり、恋愛ドラマであると
同時に、いわば「明確な犯人も被害者もいない」謎解きミス
テリ(より正確にはパズラー)である。物語を起動するため
の「事故」や「殺人」は起こるのだが、ここで重要視される
のは「犯人探し」より、その「要因」であり、真実はどうだ
ったのかという「真相の解明」である。
 6人の生徒たちが抱える「過去の記憶」のざらざらした部
分、目を背けて過ごしてきた時間、ともすれば胸の奥底に永
久に封じ込んだままだったかもしれない様々な「思い=謎」
を、吉永小百合演じる川島はるが「探偵」役となって生徒た
ちを訪ね歩き、「証言」を得ることでひとつずつ解明=解体
していく。(もちろんその過程で「探偵」自身も、隠してい
た真実を吐き出すことになる)

 先生との再会によってあらためて自分自身を客観視した6
人は、心に溜め込んでいた本心を打ち明ける。映像もそれに
伴い、はじめに主観的に提示された場面が、再度「別角度」
から反復されることで「客観的な事実」がそこに上書きされ、
生徒それぞれのエピソードの意外な真相が語られていく。
 彼らの心が「解放」される度に「謎」だったものの実相が
徐々に見えてくる作劇は、まるでバラバラの「パズル」のピ
ースをはめ合わせることで「一枚の絵」が完成するような、
刺激的な面白さに満ちている。

 すべての謎が解けた時、「過去」という鳥カゴから解放さ
れたカナリアたちは、かつての故郷の学び舎に集まり、再び
あの頃の歌を取り戻す。失いかけた「それぞれの歌」、そし
て「みんなの歌」を取り戻すための、長い長い旅が終わりを
告げる。ラストのすっきりとした爽快感は、厳冬の季節であ
りながら、どこかとても暖かい。
 映画『北のカナリアたち』は「犯人のいない」ミステリで
はあるが、登場人物たちの「動機」だけはっきりしている。
それは、人が人を想う時のどうしようもなさ、であり、それ
はこの映画そのものの「動機」と言えるかもしれない。
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