【映画批評 過去記事から】
■2012/シネマスコープサイズ/126分
■制作プロダクション:ROBOT
監督:本広克行
脚本:君塚良一
撮影:川越一成
照明:加瀬弘行
編集:田口拓也
音楽:菅野祐悟 シリーズ音楽:松本晃彦
出演:織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里、伊藤淳史
   佐戸井けん太、ユースケ・サンタマリア
   内田有紀、水野美紀、小栗旬、小泉孝太郎
   大和田伸也、津嘉山正種、香取慎吾

【映画公式サイト→】


d(>_<  )Good!(2012/12/01 ユナイテッドシネマ札幌 7)

「正義を行えば、世界の半分を怒らせる」
                (映画『紅い眼鏡』惹句より)

 これは本来、本広克行監督が『踊る大捜査線』の参考作品
として挙げている『機動警察パトレイバー』のキャッチコピ
ーだったそうだが、「作品を端的に表現する」という意味で
は、『踊る大捜査線』にこそ似つかわしい気がする。

 脱サラして警察官になった青島俊作(織田裕二)は、規則
と慣例に縛られた現場と、権力とエリート意識が横行する警
察組織の中を、信念に基いて果敢に突進していく。「正しい
こと」を全うするためには、時にルールを破って暴走し、周
囲の人々を巻き込んでゆく青島の「正義」は、常に警察上層
部を「怒らせて」きたといえるだろう。
 そんな青島と湾岸署の面々が活躍する劇場版第4弾の本作
では、シリーズ15年目にして、ついに組織の権力構造その
ものと真正面からぶつかることになる。
踊る大捜査線FINALスチール1
 映画の冒頭は、商店街の唐揚げ屋で仲睦まじく働く青島と
すみれ(深津絵里)という、まるでパラレルワールドのよう
な意外なシチュエーションから始まる。クラシックな日本映
画の人情喜劇風なやりとりが妙にハマっていて愉快だが、い
つもの「緑のコート」が一閃されるや、本来の『踊る』タッ
チに切り替わり、さらにシリーズの歴史を総括するような圧
巻のオープニングタイトルへとつながっていく。すこぶる快
調な滑り出しで、本作に対する興趣が弥が上にも湧き上がる。

 物語の舞台を大きく刷新した前作『MOVIE3 ヤツらを解
放せよ!』が、その新生面をより強調していたのに比べると、
本作のニュアンスはテレビシリーズに近く、原点回帰の印象
が強い。その意味ではシリーズをリファインした作品ともい
えるが、全体的に落ち着いた雰囲気の中、シリアスとコメデ
ィが絶妙に同居する作劇の安定感には、歴史を積み重ねてき
た作品ならではの余裕と、その成長の結果が感じられる。
 とりわけ、コメディとしての完成度は全4作中で最も高く、
「発注ミスで大量に届いたビール」を巡る署内での騒動をは
じめとして、演出・演技・編集の連携による「肩の力が抜け
た」シーン作りと、間の取り方の巧さが随所に笑いを弾ませ
る。

 その一方、近年の刑事ドラマの時流ともいえる「警察によ
る組織的隠蔽」というモチーフを採用したことで、背後にあ
るドラマそのものは、これまでになくシリアスで重い。
 国際環境サミットの会場で誘拐事件が発生、被害者はまも
なく射殺遺体で発見されるが、使用された拳銃が警察の押収
品と判明。捜査情報が所轄の湾岸署にまったく開示されず、
捜査員たちの疑念と苛立ちがつのる中、事態は真下署長(ユ
ースケ・サンタマリア)の息子の誘拐事件に発展し、青島と
室井(柳葉敏郎)には、上層部の策略によって理不尽な辞職
勧告が突きつけられる。

 過去の事件と現在進行形の事件がリンクし、警察組織の光
と影が交錯する中、ドラマは犯人の動機にも従来以上に踏み
込んでいく。そしてその中で「青島・室井・湾岸署」とは真
逆の、実に対照的な「影の存在」を浮かび上がらせる。その
シンプルな「対立構造=対決の図式」が面白い。
「同じ力」が、その使い方をひとつ間違えることで、光であ
ったはずのものがダークサイドに落ちて行く。それはシリー
ズ第1話のラストにもリンクし、あるいは真下が主役のスピ
ンオフ作品 『交渉人 真下正義』のラストにも重なるイメー
ジである。
踊る大捜査線FINAL スチール
 また本作では、ドラマの重要なポイントでもあった「青島
を軸とした人間関係」にも、それぞれの結末が用意されてい
る。警視庁キャリアの室井との友情にも似た共闘関係、そし
て同僚刑事すみれとの友情以上・恋人未満の微妙な関係の行
方。これまでの数々のドラマが反復され、その時どきの「問
い」に対する「答え」が15年の時間経過を踏まえた現在の
視点から力強く描かれる。
 権謀術策ばかりの会議室を離れ、再び捜査現場で指揮を執
る室井、悩んだ末に退職を決め、ひとり署を去ろうとするす
みれ、そして人質を救出すべく、犯人の足取りを懸命に追う
青島。湾岸署/夜行バス/犯人追跡というそれぞれ「別々の
空間=場所」にいる彼らだが、次第にその思いが一直線につ
ながり、文字通りクライマックスに「突き進む」。

 そして、真犯人を前にある「信念」を口にする青島の揺る
ぎない自信に満ちたセリフには、青島にとって欠かすことが
できない人物でありながら、前作より不在となってしまった
和久刑事の「存在」が強く意識されていて、そこには15年
越しの「刑事魂の継承」がくっきりと描き出されている。
(室井が強行犯係のメンバーに語りかけるシーンも同様だ)

 青島とすみれの再会シーンには、映画冒頭の潜入捜査シー
ンの構図がそのまま反復かつ反転され、ほんのわずかに緩ん
だ二人の距離感と緊張感の中に、深く静かな情感が溢れる。
「友情」も「愛情」も、「正義」と同様、胸に秘めておくく
らいがちょうどいい…というのは、如何にも『踊る』らしい。

 組織はどうあるべきか、そこに正義はどう存在するべきか。
シリーズを通じて一貫して語られてきた大きなテーマに対し
て、きっぱりと提示されるその結論=「新たなる希望」は、
直截的で理想論過ぎるかもしれない。しかし「組織」の在り
方が歪み、「正義」が欠落しかけた日本の現状を踏まえれば、
このくらいストレートで明確なメッセージの方が、より実感
的で、皮肉が効いているといえる。
 人が信念のもとに行動を起こす時、世界の半分は怒るかも
しれないが、残りの半分はきっと味方になってくれる。それ
を信じることは、けっして「愚か」なことではないはずだ。

 映画を観終わったあとも、あれこれ思いを馳せることので
きる希有な作品『踊る大捜査線』。その最新作である本作に
ひとつだけ欠点があるとすれば、それはこの作品が、15年
続いた人気シリーズの「最終作」だということだろう。(了)
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