【映画批評 過去記事から】
任侠ヘルパー■2012/シネマスコープサイズ/134分
■制作:角川大映撮影所プロダクション事業部
監督:西谷弘
脚本:池上純哉
撮影:山本英夫
照明:小野晃
美術:山口修
編集:山本正明
音楽:高見優
主題歌:LOVE PSYCHEDELICO
出演:草彅剛、安田成美、香川照之
   夏帆、風間俊介、黒木メイサ
   堺正章、杉本哲太、宇崎竜童

※2013/6/21(金)DVD&ブルーレイ発売

「任侠道。弱きを助け、強きを挫く。命を捨ててでも義理人
情を貫く。おれはそんな、本物の極道になりたかった…」
 一度は組を抜けたものの、カタギの暮らしの生きづらさに
再び裏の世界に足を踏み入れる翼彦一。しかし、縁を辿って
流れ着いたある町で任されたシノギは、介護施設の老人から
年金や生活保護費を巻き上げることだった。
 はじめは淡々と仕事をこなしていたものの、老人たちが置
かれている劣悪な状況に対して、次第に苛立ちを覚えるよう
になった彦一は、廃屋同然の施設の立て直しを決意する。

 映画『任侠ヘルパー』は、「やくざが老人介護をする」と
いう意表をついたコンセプトを、あえて王道の任侠映画のフ
ォーマットで描いていくエンタテイメント活劇である。
 テレビドラマシリーズの映画化ではあるが、続編や番外編
ではなく、きちんと映画として独立するように構成されてい
て、過剰な説明や扇情的な表現を避けて「映像」でドラマを
見せる演出が、画面から映画の匂いを濃厚に漂わせる。

 ドラマ版と同様、草彅剛が主人公を演じるが、彼の本来の
持ち味である「優しいイメージ」を覆した、骨っぽいハード
なキャラクター作りは瞠目する素晴らしさで、その身体性か
ら生み出されるアクションのしなやかさ、何気ない動作のひ
とつひとつが、あらゆる場面で強い存在感を放つ。
 彼が演じる彦一は、「真の任侠道」を理想として希求して
いるのだが、それが「主人公がふらりと町に現れ、また去っ
ていく」物語の構造とピタリとシンクロし、物語の始まりか
ら終わりまでを一直線に突き抜けていく。その作劇の「ベク
トル感覚」が見事で、数々の社会問題をモチーフとして内包
しつつも、その重さを越えていく痛快さと躍動感に満ちてい
る。

 映画は、観客との間にある「観る/観られる」の関係性に
よって成立するが、本作はその物語においても「見ること」
「見られること」によるドラマが展開する。
 彦一は常に誰かを、あるいは何かを「観て」いる。目撃し、
傍観し、観察し、そして見守る。メンチを切る(睨みつける)
時以外に、彦一はなかなか他人と目を合わせようとしないが、
その冷徹な視線の奥には意外な優しさが潜んでいて、行動の
端々でそれが自然と滲み出してくる。それゆえに、他者に向
けられる彼の視線のゆくえ=視線のアクションは、常にドラ
マと直結するのである。
 しかし同時に彼は「見られる」存在でもある。常に監視さ
れ、疑いの目を向けられ、あるいは尊敬の念で見られ、愛情
で見つめられる。葉子の子供たちが彦一に向ける視線、茜と
彦一の姿をこっそり盗み見する子供たち、認知症のために彦
一を夫と勘違いする露子、嫌悪から信頼へ変わっていく葉子
の視線… 印象深い「視線」のシーンは枚挙に暇がないが、
それらは彦一という存在をフィルターとして、登場人物それ
ぞれの境遇や背景、複雑な心の機微を繊細に描き出す。

 映画『任侠ヘルパー』は、アウトローの主人公・翼彦一が
非道な敵と闘うヒーロー活劇であると同時に、彼の「成長」
物語でもあるが、それもまた「視線」をモチーフに描かれて
いる。
 物語の冒頭、コンビニ強盗に遭遇するシーンで防犯カメラ
に「偶然」映し出された彦一は、物語のクライマックスでは
インターネット中継のカメラに「自ら」写り込み、大暴れす
る。「見る/見られる」という関係の象徴的なアイテムであ
るカメラ、そのレンズに捉えらた二つの「彦一」像は、活力
のベクトルとしては明らかに正反対であるが、時間を隔てて
描かれるこの二つのショットの差異の中には、閉塞感を抱え
た現状から「逃走」し、組織やシステムとの「闘争」を経て、
一人の「俠客」へと至る主人公・彦一の「成長過程」が明確
に表されている。そして、二つのショットの間をつなぐ時間
(=物語)とは、観客がこれまで「観てきた」映画そのもの
であり、その映画の「フレーム」もまた、紛れもなく「カメ
ラ」なのである。映画は「観客との間にある「観る/観られ
る」の関係性によって成立するのだ。
 そして、この二つの映像のイメージは、複合された形でラ
ストに再び提示される。

 警官に追われ、物語冒頭と同じように一度は逃げ出す彦一
は、不意に立ち止まって振り返る。この時、彦一の視線と観
客の視線は、正面から交じわる形になる。(つまり「見る/
見られる」の関係だ)カメラが真正面から捉える彦一のショ
ット、しかしその表情に悲壮感はなく、自信に満ちてどこか
爽やかにすら見える。おそらく彼には、目の前に続く「任侠
道」がハッキリと見えていたに違いない。

 弱きを助け、強きを挫く。命を捨ててでも義理人情を貫く。
非道な行為を前に「見て見ぬふり」が出来ない、侠気のある
生き方は、現代においては「新しい形のヒーロー像」なのだ
ということを、映画『任侠ヘルパー』は示唆している。
 古来、「新しい酒を古い革袋に入れるな」と言われるが、
「任侠映画」というジャンルを現代風に再起動させた本作は、
「酒」も「革袋」もどちらも活かすことに成功した、予想外
の秀作といえるのではないだろうか。
    (天動説 2012/12/27 ユナイテッドシネマ札幌8)

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