【映画批評 過去記事から】
アカルイミライ■2002年/1:1.85/HD24P/115分
■制作:アップリンク=デジタルサイト
監督・脚本・編集:黒沢清
撮影:柴主高秀
美術:原田恭明
音楽:パシフィック231
出演:オダギリジョー、浅野忠信
   藤竜也、加瀬亮、りょう、
   笹野高史


 他人とうまくつきあえない青年・仁村雄二は、刑務所に入
ることになった仕事の同僚・有田守からアカクラゲを譲られ、
飼い始める。守を心配雄二だったが、守は面会の度にクラゲ
の飼育のことばかり。苛立つ雄二は水槽を壊してクラゲを逃
がしてしまう。やがて、守とは長らく疎遠だった父・真一郎
と出会い、彼の工場で働くことになるのだが…

 ふわふわと水中を浮遊するクラゲ。どこかとらえどころの
ない、不可思議な生態を持つこの生物をシンボリックなイメ
ージとした本作は、その神秘性が「映画」と「物語」の間を
超越的にゆらゆらと往来する、ある意味において「寓話」的
な作品である。中間トーンを潰してコントラストを効かせた
デジタルカメラ撮影のメリハリのある映像に、不規則で茫漠
としたイメージがじわりと滲むように広がっていく。

 水槽の中に漂うクラゲは、若さというものが多少なりとも
内包している「毒性」や「真水で生きること=新しい別の世
界に慣れる」という成長のメタファーを含んだ、オダギリジ
ョー演じる主人公・雄二の「エイリアス=分身」である。同
様に、雄二の部屋とクラゲの飼育水槽にみる「窮屈さ」(一
見、自由気ままにも見えるのだが)は、目に見えない抑圧と、
無意識の中の鬱屈を象徴する意味において、相似形を成して
いる。
 他方、職場・ボウリング場・守の部屋・社長の豪邸・刑務
所など、物語前半における他の登場人物たちとのドラマは、
不自然にだだっ広い「非日常的」な空間の中で描かれ、その
空間を持て余した者はそこから「消えていく」という仕組み
になっている。自分に適合した空間=世界を見つける、とい
うテーマが、ここには静かに提示されていて、狭い箱の中か
ら、より広い世界へ踏み出すための「ゴーサインを待つ」不
確定な存在として、ここでも「雄二」と「クラゲ」はきわめ
て対照的な存在である。

 この「水槽」から如何にして脱出するか? 映画は、繊細
かつ瞬発力のあるシーンを紡ぎながら、浅野・笹野・オダギ
リがぴりぴりと擦れ合う前半と、不在の浅野を挟んで向かい
合う藤・オダギリの後半とで、物語のビート感を大きく変調
させながら、みるみるうちに飛躍していく。

 一見、「未来」を語りつつ、しかし映画は常に「今そこに
あるもの」しか映し出さない。現実と現実が寄り添った先に、
一瞬見える光景こそが「未来」だからだ。未来を語ることは
そのまま「現在」を語ることであり、現在を真摯に語る限り、
それはつねに「未来」へ至る物語となる。

 河を流れていくクラゲと、路上をダラダラと歩いていく若
者たち。直截的すぎる比喩でありながら、どことなく戦慄的
で、どこか可笑しさがダブる奇妙な光景。川の流れのように
映画の「内」から「外」へと流れ出すエモーション。
 どこまで流れていくのかは判らないが、その流れに乗れば
必ずどこかへ辿り着く。「ここにいてもいいんだよ」と言わ
れても、雄二(あるいは「彼ら」)にとっては、「そこ」は
やはり「水槽」の中でしかないのだ。

 時間は未来に向かってしか流れない。流れることを止めた
ものはいつしか澱み、濁っていく。青年の物語はそれゆえに、
川の流れのように絶え間なく(映画のエンディングをも越え
て)続いていかねばならない。そしてそれは間違いなく、流
れ続けている。本作の観賞後に去来する、えも言われぬ感動
は、その「果てしのなさ」を前にした「畏れ」に似た何かで
ある。        (天動説/映画批評:2011/1/31)



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Name:竹澤収穫



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