【映画批評 過去記事から】
愛と誠■2012/シネマ・スコープ/134分
■制作プロダクション:エクセレントフィルムズ=OLM
監督:三池崇史
原作:梶原一騎/ながやす巧
脚本:宅間孝行 
撮影:北信康
美術:林田裕至
照明:渡部嘉
編集:山下健治
音楽:小林武史
出演:妻夫木聡、武井咲
   斎藤工、大野いと、安藤サクラ
   前田健、加藤清史郎、一青窈
   余貴美子、伊原剛志、市村正親

富豪のひとり娘で天使のように純真無垢なお嬢様・早乙女愛
(武井咲)は、街角で大暴れしている不良の誠(妻夫木聡)を一
目見て恋に落ちる。運命的に出会った、生い立ちも性格も何
もかも違う二人。己の拳以外何も信じない誠、煙たがれなが
らも彼を一途に想い続ける愛。果たしてこの恋の行方や如何
に…

 70年代に一世を風靡した人気劇画を原作に、奇想天外な
ミュージカル仕立てで描く純愛エンタテイメント。恋あり、
歌あり、アクションあり、様々なスタイルやモチーフの混在
した中からポップに浮かび上がる本作は、コメディのさじ加
減も絶妙で、大いに楽しめる快作になっている。そのざっか
けないパワーは、東映のプログラム・ピクチュア(週変わり
で量産された二本立て中長編映画)を彷彿とさせ、すこぶる
楽しい。

 物語の大筋は、ケンカ三昧の不良高校生・太賀誠と、彼に
思いを寄せ、何かとお節介を焼く富豪令嬢・早乙女愛の「す
れ違い」の恋愛ドラマだが、愛の「一途な愛」が感動的に迫
ってくる…というよりは、その思い込みの激しい勘違い的な
行動が生み出す「気持ちのズレ」、結果的に誠の足を引っ張
ることになるシチュエーションの面白さが際立つ。
 うざったいが憎めないキャラクターをチャーミングに演じ
る武井咲、彼女にことあるごとに振り回される無骨な男を無
愛想に演じる妻夫木聡。一見「純愛ドラマのパロディ」のよ
うにも見えるが、これは二人の恋愛の「純粋さ」がその過剰
さのあまりユーモアに転化しているのであって、そこに「可
笑しさ」はあっても不愉快さはまったくない。

 その一方、誠自身のドラマは、映画前半で痛快に弾ける喜
劇性と比べるとやや弱く感じるが、「母」に対する失望感と
喪失感を要因として、誠の中で「愛情」という概念そのもの
が「欠落」している(愛情への不信感)のではないか、と理
解できる。前半の余貴美子と加藤清史郎のシーンをフックに、
映画後半からクライマックスにかけての「回想シーン」によ
って、誠のドラマは一気に濃密に、そしてある意味「過剰」
に描かれることになる。(そのため、屋上での決戦の後、あ
えて愛は一時的に物語上から「退場」する)
 そして、母との対峙・理解という形での和解・そして決別
が、誠のドラマの「空白」部分を埋めつつ、彼の中から「欠
落」したもの(母=女性に対する愛情の感覚)を補完し、映
画全体を一本の太い「流れ」に繋いでみせる。
 この親子のシークエンスは、時間的にはそれほど長くない
ものの、ショット一つ一つが持つ映像の「理力」と「強度」
が素晴らしい。

 誠の中での「愛情の回復」は「愛と誠の恋愛ストーリー」
を完成させるための最後の「ピース」である。ラスト、誠が
「言葉」に頼ることなく、ただひたすら愛の元へ歩き続ける
ことで、彼の中に封印されていた「誠実さ」という本質と、
「愛を受け入れる心」を蘇らせたことがハッキリと示される。
 本作は、誠にかけられた復讐という名の「呪縛」を解くた
めに「失われたピース」を奪い返す冒険ファンタジーなのだ。
そう考えると、数々の奇抜な舞台設定や、岩清水(斉藤工)
やガム子(安藤サクラ)、権太(伊原剛志!)といった奇天
烈なキャラクターも、さもありなんと思えてくる。
 そして言うまでもなく、早乙女愛の太賀誠に対する「一途
な愛」もまた、「誠の愛」を手に入れるための「命がけの冒
険」だったはずだ。それゆえに、ふたつの冒険の結末がピタ
リとひとつに重なる時、この「物語=映画」は、静かにフィ
ナーレを迎えるのである。

 本作『愛と誠』は、古色蒼然とした単なるメロドラマに終
らない、三池監督流の「遊び」や「毒」といったスパイスを
刺激的に効かせたやんちゃな映画だが、その中身は意外と直
球で攻める王道の恋愛映画であって、決して悪ふざけにはな
っていない。その作劇は「純愛」に対する「照れ隠し」ゆえ
のものであり、「映画」に対する監督流の「愛」と「誠」な
のではないか。観客に結末を委ねるラストシーンを観ると、
そんな気がするのである。    (天動説 2013/02/07)

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『愛と誠』(三池崇史監督)、正統的な映画化

引き続き備忘録的なレビューです。 今回は三池崇史監督の『愛と誠』。
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Name:竹澤収穫



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