【映画批評 過去記事から】
横道世之介■2013年/ビスタサイズ/160分
■制作プロダクション:キリシマ1945
監督:沖田修一 原作:吉田修一
脚本:沖田修一、前田司郎
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
編集:佐藤崇
音楽:高田漣
出演:高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩
   綾野剛、國村隼、井浦新、堀内敬子、きたろう
   余貴美子、朝倉あき、黒川芽以、柄本佑
   江口のりこ、佐津川愛美、眞島秀和、渋川清彦 ほか


映画公式サイト→

 大学進学のために長崎から上京した横道世之介。ちょっと
鈍感で、でも嫌みのない性格のお人好し、そんな世之介とガ
ールフレンドの与謝野祥子、そして周囲の人々との青春時代。
そして十数年後、ある出来事から不意に呼び覚まされる、そ
の愛しい日々と優しい記憶の数々の物語。

★…160分は長いなぁという印象。ただ、吉高由里子が魅
力的でとてもイイです。とくに「ハンバーガー」と「ぐるぐ
るカーテン」のシーンは必見です。
※2013/02/12試写会にて 2013/02/23加筆

 時はバブル景気の時代、上京して右も左もわからない青年
・横道世之介は、大学生活を軸にさまざまな人たちと出会い、
そして別れを経験し、彼と出会った人々もまた特別な思いを
抱く。
 …この映画の物語はほとんどその一点にのみ注力される。
いや、そういう指摘もそぐわないほどに「普通」であること
にこだわっている。それゆえに本作には、説話な技巧はなく、
まるで「ふと、思い出した」「そういえばこんなことがあっ
た」というニュアンスでシーンがつながれていく。

 それはこの映画の本質的テーマに合致した、あるいは映像
表現として「そのこと」を的確に描いてみせた、と取ること
も出来るのだが、しかし同時に、素直に映画館で作品を目に
した場合にはやはり単調で、シーンやエピソードを棒つなぎ
にしたようにしか見えないのも事実である。
 例えば、何のブリッジもなく、過去と現在のシーンがダイ
レクトにつながっていることは、時間感覚の混乱を招くし、
感覚として「リアルタイム」に進行しているはずの同じ時間
軸においても唐突に場面が転換するのは、如何に作劇として
「思い出した」「そういえば…」という表現であったとして
も、結果的にいささか独善的な語り口として受け取れてしま
うのである。

 物語が「普通の日常」を「普通」に描こうとするあまり、
何らかの事件や人物の描写はあっても、そこにドラマは何も
起こらない(普通の人々にとって、リアルな現実とはそうい
うものなのかもしれないが)。物語の「核心」であるはずの
「ある出来事」についても、あまりにも素っ気なく提示され
てしまい、通常であればクライマックスでの感動を呼ぶため
の重要な布石が、ここでははなっから放棄されているのだ。
 それは予定調和的な感動の否定でもあるが、明らかに「ド
ラマ」的構造を意図的に捨てたことになる。

 では、一見エピソードの羅列でしかないような本作がつま
らないかと言えば然にあらず、個々のシーンにはそれぞれの
面白さがあり、それは間違いなく登場するキャラクターの魅
力によるところが大きい。
 何よりもまず、まるで子供のように純粋な高良健吾、浮世
離れしたお嬢様だが、これまた純粋でいじらしい吉高由里子
がきわめて好ましく描かれていて、それは本作そのものの魅
力にも通じている。まるで「天真爛漫さの頂上決戦」のよう
な二人だが、吉高の魅力が高良を終始圧倒する勢いで、大き
なボールに乗りながらのプールでの会話、笑いを弾けさせる
ハンバーガー店、カーテンに巻き付きながらはにかむ告白シ
ーンなど、その魅力溢れるシーンは枚挙に暇がない。

 二人の仲睦まじい様子は、それだけで観るものの気分を楽
しくさせるが、大学の友人・綾野剛、池松壮亮、柄本佑、朝
倉あき、憧れの女性・伊藤歩、あるいはアパートの住人・江
口のりこ、井浦新らとのコントのような絶妙な掛け合いの面
白さは、高良健吾のニュートラルな演技によって面白さが何
倍にも膨らむ。逆に言えば世之介と誰かが出会った瞬間、ま
さにその時だけ「ドラマ的」な何ものかが立ち上がってくる
といえるかもしれない。それは、世之介が現実の存在であっ
ても記憶の中の存在であっても何ら変わりはない。観客もま
た他の人物同様「世之介と出会った」記憶を共有することに
なるのだ。

「物語としての作劇」を重視する観点からは、ドラマとして
のメリハリがない分160分は長過ぎて、途中でダレるし、
起伏の少ない平板な語り口のまま迎えるエンディングは、物
語の受け取り方やその解釈を、全面的に観客に委ねているこ
とと同義だといえる。
 しかし「物語のテーマ」から考えれば、映画を見終わった
観客が、劇中人物同様「世之介という人物と出会ったことを
懐かしく思う」ことを、その「映画体験」を通じて疑似体験
するための手法…という好意的解釈もあり得なくはない。

 映画『横道世之介』は、その映像の組み立て方を是とする
か非とするかで「作品評価」が大きく分かれると思う。そし
て、どちらが正しいのか、あるいは正しいと思えるのか、に
わかには判断がつきそうにもない。
 しかしいずれにせよ、その二つの意見の狭間で、どうやら
「横道世之介」なる人物は、悪戯っぽく笑っているように思
えてならない。まったくもって憎めない男ではある。
(。・ˇ_ˇ・。)ムム… (天動説 2013/02/12試写会 ユナイテッドシネマ札幌6)

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