【映画批評 過去記事から】
竜二Forever■2002年/アメリカンビスタ/115分
■制作:東北新社クリエイツ
監督:細野辰興
原作:生江有二「竜二 映画に賭けた33歳の生涯」
脚本:細野辰興、星貴則
撮影:栗山修司
照明:高柳清一
編集:岡安肇
音楽:籔中博章
出演:高橋克典、香川照之、木下ほうか
   石田ひかり、堀部圭亮、水橋研二
   田中要次、高橋明、奥貫薫、高杉亘
   桜金造、笹野高史 ほか

 映画スタアを夢見て上京し、アングラ劇団の看板役者を務
めながらも、映画への熱き想いを捨てきれずにいた金子正次
は、自ら自分主演の映画脚本を執筆することを決意する。作
品のタイトルは『竜二』。
 しかし、無名の役者が主演の映画に製作費を出してくれる
映画会社はなく、『竜二』は自主映画としてスタートするこ
とを余儀なくされる。そしてその行く手には、映画さながら
の艱難辛苦のドラマが待ち受けていた…
d(>_<  )VeryGood!!(2012/3/3 再2013/3/23 DVD)


「フッと、ヤクザの足を洗ってみたが…親子三人、2DKの
愛情は、俺の棲み家になるだろか。」(『竜二』映画惹句より)


 83年公開の映画『竜二』は、自主制作作品ながら、従来
のヤクザ映画の概念を打ち破るその唯一無二の作品性によっ
て、伝説的に語り継がれる日本映画史上の不朽の名作となっ
た。だが『竜二』が今もって不滅であり続けるのは、当時ほ
とんど無名ながら、自ら脚本を書き・主演を務めた金子正次
の魅力によるところも大きいだろう。
 生涯唯一の主演作を遺して、銀幕の彼方へと消えていった
男。その激しくも濃密な映画人生を綴ったノンフィクション
「竜二 映画に賭けた33歳の生涯」をベースにした本作は、
その人生を閃光の如く駆け抜けた金子正次と、彼が心血を注
いで作り上げた映画『竜二』を巡る人々の物語である。

『竜二』映画化のために、強引なまでに周囲を巻き込んでい
く金子。旧知の金子に乞われて監督を引き受けるものの、勝
手の違う撮影現場に困惑するドキュメンタリ映像作家の田中
豊(モデルは吉田豊)。金子とは映像学校の同期で、撮影現
場を数多く踏んでいる石原(モデルは映画監督の川島透)は、
そんな気弱な田中に苛立ちを感じながらも、映画完成の為に
現場スタッフのまとめ役に徹する。
 三者三様の思い、深まる対立と葛藤。その複雑な関係性を
軸にドラマは展開するが、それは映画『竜二』の製作物語で
ある以上に、「金子正次が花城竜二になっていく」過程の物
語といってもいい。様々な現実の出来事を糧にして、金子は
「紙の上の存在」だった竜二に近づいていくのである。

 映画『竜二』の映画ということで、関係者や出演者など、
実在の人物をモデルとした役が多いのも本作の特徴だが、高
橋克典がみせる圧倒的な「金子正次」像は、その表情や佇ま
い、セリフのニュアンスまで、まるで「魂が乗り移った」か
のような見事さで、シーンによっては「本人が蘇ってきたの
ではないか?」とさえ思えてくる。「竜二」を演じる「金子
正次」をさらに演じるという複雑な演技の中において、「高
橋克典」はどこにも存在していない。

 彼に限らず、女優・荻島慶子(モデル:永島暎子)の奥貫
薫、舎弟の直を演じるギンゾー役:堀部圭亮(モデル:桜金
造)、そして金子と縁の深かった俳優・羽黒大介(モデル:
松田優作!)役の高杉亘など、演じる当人と役柄のイメージ
との同化ぶりは、違和感をまったく感じさせない好演で、単
に見た目をそっくりに似せる、あるいは特徴を真似るのでは
なく、そのキャラクターの本質を掴み、役をその身体に「再
構成」する事で、誰もが魅力的に物語の中に存在している。
 その強靭な演技と人物描写は、「金子正次」という人物の
「外堀を埋める」役割を果たしていて、彼らとのやりとりの
中で「金子正次」の人物像がより立体的に見えてくる。

 一方、比較的実在イメージに引っ張られない役どころであ
る石原役・木下ほうか、田中豊役の香川照之の、ひりひりと
した緊張感を伴った演技は、物語の「本丸」として、ドラマ
に一層の厚みと血の通ったリアリティを生み出し、高橋克典
との「芝居のトライアングル」は、映画を強固に支えている。


 …しかし、彼らが演じる「劇中の3人」の共闘関係は、そ
れぞれが抱えた思惑と葛藤の衝突によって、もはや限界に達
していた。混乱・停滞を続ける現場を見るに見かねた石原が
演出サポートに入り、作品は一旦は撮り終わるものの、それ
は金子たちが思い描いていた映画とはあまりに違うものだっ
た。監督としての力量不足を痛感しながらも、金子の映画を
完成させる為に孤立無援の現場に留まり続けた田中だったが、
苦悩の末に監督降板を申し出る。
 友情を根拠にした過信は、プロの現場の前では通用せず、
映画というリアリズムが絡んだことで、3人の関係性は否応
なく変化してしまった。ここで彼らは一度、敗北を喫したこ
とになるのだが、挫折から再び立ち上がって逆転勝利する、
という展開は「映画の物語」の王道である。
 映画が走り出した以上、もはや途中で止める訳にはいかな
い。金子は再撮影を決断、監督を石原に依頼し、映画製作は
リターンマッチ(第2幕)に突入していく。

 心ならずもすれ違っていく男たち。一人は失望の中、表舞
台から去り、一人はそれに代わって頭角を現していく。
 一方、進むべき道をハッキリと悟った者は、ひたむきにそ
の道を突き進んでいく。そんな金子たちの姿は、あまりにも
映画『竜二』の中で語られる、竜二と舎弟たちの「その後」
にダブって見える。

 映画『竜二Forever』では、『竜二』が事実上(良くも悪
くも)二人の監督の「イメージがダブる」ことで「精錬」さ
れた映画だった事実が語られるが、金子たちの映画完成まで
の苦闘の物語を描く本作では、演出技法としての「イメージ
のダブらせ」が随所に取り入れられている。
 劇中で映画『竜二』をそのまま再現するシーン、映画と同
一シチュエーションを意図的に物語に組み込んだシーン、イ
メージを流用しながらドラマ的にそれを「反転」させる作劇。
それらの映像演出によって「虚実」が何重にも折り重なり、
そのイメージが同化、あるいは反転することで、キャラクタ
ー間に流れる様々な感情、人間味溢れるドラマが、より「洗
練」されて画面にくっきりと浮かび上がってくる。

 その最たるものが、有名な『竜二』のラストシーン撮影の
シークエンスだろう。おそらく誰もがその「再現」度合いに
関心があったと思われる「竜二と妻のまり子が、無言で決別
を確信する」シーンの再現をすっぱりカットしつつ、その直
後にほぼ同様の画面構成で、「微笑む」荻島と、金子のリア
クションのショットをつなぐことで、『竜二』本編シーンの
根源的な意味はそのままに、イメージだけをひっくり返して、
ドラマの1シーンに鮮やかに組み込んでみせるのである。
 単なる「再現」「リメイク」のレベルに甘んじない挑戦的
ドラマ構成が素晴らしい。(映画ラストでは、まったく別の
アプローチで、再びこのシチュエーションを「ドラマ的」に
反復してみせることになるので、こちらも要注目である)


『竜二Forever』は、金子正次の伝記、あるいは映画『竜二』
のバックステージ・ドラマであると同時に、そこから大胆不
敵に踏み出すことで、時代を超えた「男たちの物語」として
きっちりと成立しているところに、その真価がある。
 原作ノンフィクションの記述・関係者の証言を、大胆かつ
巧妙にアレンジして「映画」に変換しつつ、そこに映画『竜
二』を「解体」して抽出したドラマ要素を組み込んで再構成
することで、「竜二」をモチーフにしながらも、それに依存
することのない「新たな物語」にもなっているのである。
 それは、クライマックスへ進むにつれ、そして最も動かし
難い事実である「金子正次の死」を描いたあと、まるで闇を
突き抜けた」かのごとく、映画が「新しい表情」をみせる
ことでも明らかだ。

 人がその人生を最後まで「活き抜く」ということ。
 金子はそれを「心揺れるヤクザ・竜二」に託して描いたが、
『竜二Forever』では、そのテーマをそっくりそのまま「金
子正次・本人」に当てはめて描いていく。
 事実に基づきながらも敢て「架空の物語」と銘打った本作
は、「東映映画」風に言うならば「実録・映画『竜二』伝」
といった趣きの映画だ。そこにはフィクションだからこそ描
ける「思い」、史実を越えて伝わる「真意」がある。「映画
に賭けた男」金子正次を描くには、やはり「ドキュメンタリ」
ではなく「劇映画」でなければならなかったのだと思う。
 映画という「フィクション」が持つ力を信じること。虚実
の狭間から滲み出すエモーション。
 その意味において、『竜二Forever』は映画『竜二』に対
する「返歌」である、と言えるかもしれない。


 映画『竜二』が封切られた映画館の前。その同じ空の下、
かつて同じ夢を見た3人の男たちは、最終的に互いを理解し
ながらも、今は交わることもなく、それぞれの岐路に立って
いる。(木下ほうかと香川照之の佇まいの凛々しさ!)
 彼らはまさに『竜二』のラストシーンのように「現実」の
雑踏の中に消えていく。そして、銀幕を通して解き放たれた
一匹の「白い竜」が悠然と街を往く…
 設定こそ1983年であるが、ラストシーンの新宿は明ら
かに「現在」(2000年代)の風景である。はたして、こ
の時代に「振り返らずに人生を活き抜いていく」男のロマン
はまだ残っているだろうか。
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