【映画批評 過去記事から】
あぜ道のダンディ■2010年/ビスタサイズ/110分
■制作:スモーク、ダブ
監督・脚本:石井裕也
撮影:橋本清明
照明:鈴木大地
編集:相良直一郎
音楽:今村左悶、野村知秋
出演:光石研、田口トモロヲ、森岡龍
   吉永淳、岩松了、西田尚美



 北関東のとある地方都市。自転車であぜ道を走るイケ
テない中学時代をともに過ごした宮田淳一と親友・真田。
 50歳になった宮田は、妻を亡くし、二人の子どもたち
との会話もかみ合わない毎日。そんなある日、胃の不調
を覚えた宮田は、胃ガンなのではないかと思い始める。

 ごく普通の男50歳の、友情と家族愛のダンディズム、
ひとつひとつがじっくり描き込まれたショットの積み重
ねがしみじみとした感動を呼ぶ、「拳銃」も「犯罪」も
ない「ハードボイルド」映画である。
 父親に冷淡で自分勝手に振る舞う子供たち、すれ違い
の家族の中で浮き上がってしまい、苦労の年月も空しく
なるばかり…しかし、そんなありがちな設定と見せかけ
つつ、「余命わずかの難病」や「家庭不和」や「犯罪」
「暴力」…といった定番要素を映画は軽やかにかわし、
観客が思い込みがちな「映画イメージ」を次々に裏切っ
て、前向きで優しい物語を紡いでゆく。

 予想の付かない角度から飛び出てくる空回りスレスレ
のセリフ、光石研のいわゆる時代錯誤的な「茹で過ぎ」
でガチガチの父親像と、それに陰日向となって助言尽力
する田口トモロヲの、やや気弱で人のいい「半熟気味」
の親友関係。二人がさながら「探偵」と「依頼人」のよ
うに身近にわき上がる「難事件」に一喜一憂する姿が、
そこはかとなく愛しく、かつ面白い。

 家庭の破綻と崩壊を描くことが「リアルな時代性」と
なってしまう今、あえてファンタジーに近い視点と表現
で、希望を込めて家族の「本質」とはなにかを提示する。
親と子、どちらかに肩入れするのではなく、両方の思い
を等分に、過不足なく描くという姿勢は、これまであま
りなかったのではないか。この作品は、世の大多数の家
族の最大公約数的風景はこういうものであるはずだ…と
再認識させてくれる。そしてクライマックス、西田尚美
の意表をついた登場シーンをきっかけに、観客の想像力
を刺激する、きわめて映画的でラブリーなシーンが展開、
物語の全体像を、さらに丸く優しいイメージへと変化さ
せる。
 良くも悪くも「物語」のために歪められてきた「家族
像」を愚直なまでに素直に見つめ直し、その本来の姿を
提示しようと試みる作劇は、清々しく爽やかである。そ
こに登場人物一人一人、あるいは「物語」そのものへの
信頼と愛を感じるからだ。

 映画冒頭ではただ繰り返されるだけだった退屈な日常
が、ラストシーンでは、ささやかな希望と幸福に満ちた
ものに鮮やかに変化している。そして今日も「やせ我慢
の美学」が自転車を漕いでゆく。

(天動説 2011/9/1 シアターキノ)

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