【映画批評 過去記事から】
拳銃と目玉焼■2013年/ヴィスタサイズ/115分
■制作プロダクション:未来映画社
監督・脚本・撮影・照明・編集:安田淳一
脚本協力:藤原伊織 助監督:今井伊織、前田智広
撮影補助:飯田一穂、岩見一樹
音声収録:米倉直樹、桜井健一
プロップガン製作:富永音夢
コスチュームデザイン:安田淳一
エンディングテーマ: SKALP『MOON HILL』
出演:小野孝弘、沙倉ゆうの、矢口恭平、田中弘史
   紅萬子、戸田都康、多賀勝一、吹上タツヒロ
   鈴木ただし、Tommy、ゆうき哲也 他
【映画公式サイト→】

新聞配達員の志朗は独身の平凡な中年男。地味な毎日の中で
唯一の安らぎは、行きつけの喫茶店で秘かに想いを寄せるユ
キの作る目玉焼きモーニングを食べている時だった。そんな
ある日「近所に出没する痴漢をやっつけて」という彼女の言
葉を真に受けた志朗は深夜の町に出るが、そこでおやじ狩り
に遭遇。かろうじて難を逃れた志朗だったが、「正しいこと
をする人は好き」というユキの言葉に発奮、次第に「ヒーロ
ー」への道にのめり込んで行く。
d(>_<  )Very Good!!
(2015/04/24 札幌 PUBLIC STUDIO TOMO)
 世の中には二通りの映画がある。「面白い映画」と「つま
らない映画」だ。
 その原理で言えば、『拳銃と目玉焼』はとにかく、圧倒的
に「面白い映画」である。

 全体の印象としては「随所に笑いの要素がちりばめてある
楽しい映画」だが、これは「オマージュ」と称する安手の物
語やヒーローを茶化すような安直なパロディ物ではない。
 本作は現代性に満ちた人間ドラマであり、大人の恋愛劇で
あり、上質な喜劇であり、紛うことなきハードボイルド活劇
である。そして何よりも、我々の日常の延長線上に鮮やかに
描かれる、比類なきヒーロー映画なのだ。

 本作の主人公・志朗は、もうさして若くないごく普通の男
だ。改造人間でもなければ超能力があるわけでもなく、武術
の達人というわけでもない。しかし「好きな人に褒められた
い」というちょっとした下心で始めた行動が、やがて「ヒー
ローへの憧憬」を呼び覚まし、いつのまにかどんどんその気
になっていく。そして、予想もしていなかった事件の渦中に
自ら飛び込んで行くことになる。

 恋愛をモチーフとして始まる物語前半では、浮かれ気分で
ヒーローにハマってゆく志朗(「ホントに不器用な高倉健」
といったニュアンスを小野孝弘が好演)のユーモラスなシー
クエンスと、自分と恋人とのことで悩むユキ(自然体の演技
が魅力的な沙倉ゆうの)のシリアスな「恋愛」シークエンス
を、日常生活の描写の中に並走させる。ドラマを交互に追う
ことで、シリアスとコメディそれぞれの要素が重奏的に相互
作用して、観客をストーリーの流れに無理なく巻き込んでい
く。
 ダメ男なのにどうにも憎めないキャラクターを好演する矢
口恭平、貫禄の芝居でドラマを締めるベテラン・田中弘史・
紅萬子、下手をすると羽目を外しがちなコメディシーンを日
常的なトーンで適切に抑える戸田都康、邦画ではなかなか成
立しない知的でストレンジな悪役を演じて印象的な吹上タツ
ヒロら、脇を固める役者陣のアンサンブルも楽しい。

 やがて2つのドラマは意外な展開(観る側の「思い込み」
を利用した用意周到な作劇だと思う)で融合し、日常から非
日常へ、説得力のあるヒーロードラマへと大きく転換する。
 前半「大阪のコテコテのヒーロー・コメディ」かと思って
観ていた人は、後半からの予想外の大マジなドラマ展開とバ
リバリのハードボイルド・テイストに驚くことだろう。

「8万円のカメラと750円のライト、スタッフ数平均3.5
人」で撮られた自主映画である、という本作。しかし実際の
作品は、全編チープな感じはまったくしない。それどころか
へたなメジャー映画よりしっかり出来ているとさえ感じる。
 それを可能にしているのは、卓越した映画(映像)的セン
スの素晴らしさだ。低予算をカバーするために、監督が撮影
・照明、編集など、ほとんどの技術パートを兼任したことが
逆に奏功して、画に無駄がなく、ワンカット単位のクオリテ
ィが高い。何気ない日常の風景ショット、ドラマを捉えるカ
ットすべてに落ち着いた安定感があり、映画全体のイメージ
の一貫性に寄与している。
 コスチューム作りに夢中になったり、にわかに怪しげなト
レーニングを始めたりする志朗の姿が真剣で一生懸命であれ
ばあるほど、その行動の過剰さや周囲とのズレの中にそこは
かとない可笑しさがにじみ出てくるが、これはまさに喜劇の
醍醐味だし、アクションシーンにおいても、単に派手で痛快
な動きを見せるのではなく、バイオレンス要素をクールかつ
ハードに取り入れてみせる。しかも、表現が「不快」になる
一歩手前で、ひょいとユーモアの要素を放り込む「緊張と緩
和」のバランス。その手際の良さ、演出の語り口の巧さが、
映画全体に活力を与えている。

 また、「それっぽい記号」の寄せ集めに堕していないヒー
ロースーツや2丁拳銃の秀逸なデザインワーク、派手なVFX
やワイヤーアクションこそないが、立ち振る舞いの「間の取
り方」の、ちょっとしたニュアンスが生み出す圧倒的なカッ
コ良さは、そんじょそこらの同系映画に負けないどころか、
大きく差を付けているし、先行する古今東西の映画からの引
用、そのツボを押さえた巧みなアレンジには「そう来たか!」
と思わず膝を打つと同時に「ジャンル映画」好きをニヤリと
させずにはおかない。

 物語終盤は本作の真骨頂ともいえるドラマが展開する。
 成り行きで「悪党退治」に乗り出すことになった志朗が、
それまでとはまったく違う、正真正銘危険で命がけの戦いに
臨むのは、「正義」のためではなく、ただひたすら「ユキの
ため」だった。しかし、クライマックスで死を覚悟して敵地
に乗り込む志朗の脳裏に浮かび上がるのは、肝心の「ユキの
面影」ではなく、遠い過去の幼少期の記憶・彼自身の「ヒー
ロー」(日本を代表するあのヒーローだ)の思い出なのだ。
 ここで物語は、愛する人の為に…という単純でベタな構図
を突き抜けて、明らかに「ハードボイルド」の域に到達する。
 打算なく何かを守るために戦うが、必ずしも報われず、そ
れゆえに他人から見れば愚かな存在。弱さと畏れを内に抱き
つつ、倒れてもなお立ち上がろうとする不屈の精神を持つも
のだけが、真に「ヒーロー」と呼ばれる資格を持つ。
 志朗は絶対のピンチの中で「新たな力」(言わば「ヒーロ
ー魂」というべきもの)を得て、真の意味での「変身」を遂
げることになる。
 このクライマックスシーンから、すべてのドラマの結末ま
で、志朗はずっと「仮面」のままだ。苦しみも痛みも喜びも
哀しみも仮面に隠して…というのはある意味「ヒーロー物の
基本」である。本作ラストにおける「仮面」の志朗は、まさ
に「ヒーロー」そのものだ。

 かつて、ヒーロー好き、ジャンル映画好きの共通の賞賛キ
ーワードは「燃える!」だった。胸の内に涌いてくる興奮の
度合いを端的に表した言葉「燃える」は、昨今ではすっかり
「萌える」に取って代わられてしまい、「カッコいい男のド
ラマ」はすっかりなくなってしまった。だが本作を観て「血
がたぎらない男子」などいるだろうか。きっと「忘れていた
ヒーローの記憶」が甦るに違いない。

 世の中には沢山の映画があるが、『拳銃と目玉焼』は、断
トツに「面白い」、そして間違いなく「燃える」映画である。

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