【映画批評 過去記事から】
ハラがコレなんで■2011/ビスタサイズ/109分
■制作:スモーク、ダブ
監督・脚本:石井裕也
撮影:沖村志宏
照明:杉本周士
編集:相良直一郎
音楽:渡邊崇
出演:仲里依紗、中村蒼、石橋凌
   斉藤慶子、稲川実代子
   並樹史朗、竹内都子


「焦ったり、慌てたり、しみったれた顔してんのは粋じゃな
い。大丈夫、風向きが変ったら、そん時どーんと行けばいい
だから。今は気楽に待っとこうよ」
 妊娠9ヶ月の原光子。お腹の子の父親は行方知れず、お金
も底をつき、完全に限界に達している状況にいる。しかしイ
マドキの若者には珍しく義理人情に厚く、根拠のない自信に
満ちている光子は、至ってマイペース。風に吹かれるまま、
小さい頃に住んでいた長屋へと赴くが、そこでも自分のこと
を棚にあげて、他人を助けようとする。

d(>_<  )Good!!(2011/11/15)

 妊娠9ヶ月の原光子(仲里依紗)。お腹の子の父親は
行方知れず、所持金も底をつき、完全に限界に達してい
るにもかかわらず、根拠のない自信に満ちていて、至っ
てマイペース。行くあてもない光子は風に吹かれるまま、
小さい頃に住んでいた長屋へ辿り着く。

 例えるなら、拳銃も馬も出ないウェスタン活劇。半ば
おせっかいな人助けに奮闘する妊婦の女の子と、その言
動に次第に巻き込まれていく周囲の人々の困惑と騒動を
描く本作は、現代日本を舞台にした、稀に見る奇想天外
の大活劇である。

 人情の希薄な現代社会はまさしく「荒野」だし、「赤
く焼けた空」の代わりの青空と雲、風に吹かれるまま、
雲が流れゆくままに辿り着いた寂れた長屋は「ゴースト
タウン」、「酒場」の代わりのレストラン。そして主人
公の光子はといえば、「粋」という拳銃を連発する豪快
な「ガンマン」である。

 かなり身重の妊婦でありながら、部屋なし金なし男な
し、それでも義理と人情にはやたらと厚く、困っている
人がいると見過がせない性格。「粋かどうか」ですべて
の物事をジャッジしていく豪快な女の子。自分のことは
そっちのけ、度を超して他人のために行動する彼女の突
飛な言動は、劇中の人々のみならず、観客をも知らず知
らずのうちに巻き込んでいく。
「焦ったり、慌てたり、しみったれた顔してんのは粋じ
ゃない。大丈夫、風向きが変ったら、そん時どーんと行
けばいいだから。今は気楽に待っとこうよ」
 映画は全編まさにこのセリフを実証するように進んで
いく。
ハラがコレなんで/スチール
 「人助け」というそのイメージとは裏腹に、彼女の言
動は強引かつ大胆、とにかくぶっきらぼうで大雑把。必
死に駆け回って汗だくで困難を打開するわけではなく、
とりあえず状況に対して一撃加えるだけ。最終的にそれ
がどうなるかは当事者次第というところに、時代感覚を
踏まえたリアリティ、「物語」への真摯さを感じるが、
それがいやみや不快感にならないのは、演じる仲里依紗
の魅力によるところが大きい。「妊婦」という制約があ
るがゆえの彼女の「動きの面白さ」と、雄弁でありつつ
過剰にならない表情の巧さが、光子というキャラクター
に深みを与えている。

 そしてその無意味なまでのテンションとその場の空気
とのギャップは、思わず吹き出すような、そこはかとな
い可笑しさを生み出す。ふざけているわけではないが、
一生懸命あるいは無我夢中で起こした行動が、思いがけ
ず滑稽に見えてつい笑えてしまう、という喜劇の基本か
つ本質的な部分がきちんと押さえられているからである。
 シンプルな画面構成の中に細やかに人物を捉えつつ、
複数人物のダイナミズムがドラマを活き活きと動かして、
作品を最後まで一気に見せる作劇。試みに音声をすべて
カットして観たとしても、その映像の面白さで、ストー
リーもドラマも十二分に楽しめるのではないか。
 登場人物全員が光子を軸にぐるぐると動き回り、映画
後半に起こる「ある出来事」をきっかけに、登場人物で
すら気が動転するほどの圧倒的な勢いで展開していくド
タバタ劇は、ドラマが破綻するギリギリの際を絶妙にド
ライヴしつつ、ラストへ向かって一気呵成に突き進む。

「お腹の子供」という、いつ「その時」がくるか判らな
いという意味での「不発弾」を抱えつつ、人生に行き詰
った人々が心の中にもやもやと溜め込んだ「不発」の感
情を、「粋」と人情で豪快に吹き飛ばす光子。まったく
タイミングが読めない「不発弾の爆発」や「出産」に比
べれば、自身の悩みや迷いなど、心意気一つでどうにで
もなるし、「間違った」ところで命に関わりがあるわけ
でもない。まるで根拠のない自信であったとしても、そ
れで堂々と「現実社会」や「リアルな日常」を踏み越え
ていく胆力。同時にそれは本来「映画そのもの」が持つ
活力でもあり、フィクショナルな作劇ゆえに「リアルな
時代」を越えて力強いメッセージとして明快に観るもの
に届く。(そうであればこそ、終盤の舞台に具体的な地
名を付けたのは些か「野暮」だったのではないか?…ち
ょっと残念である)
 自分がやれる範囲で、現状をちょっとずつ変えていく。
行き止まりに付き当たったら、「昼寝」して待てばいい。
『ハラがコレなんで』は、映画というフィクションが持
つ「活力」が訴えかける、まるで予想もつかなかった単
純明解なエール。観れば絶対元気になれる快作である。
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