【映画批評 過去記事から】
はやぶさ■2011/シネスコサイズ/140分
■製作プロダクション:アグン・インク
監督:堤幸彦
脚本:白崎博史、井上潔
撮影:唐沢悟
照明:舘野秀樹
編集:伊藤伸行
音楽:長谷部徹
出演:竹内結子、西田敏行、高嶋政宏
   佐野史郎、山本耕史、鶴見辰吾
   筧利夫、市川実和子、甲本雅裕



 2002年夏、天文学マニアで科学者志望の水沢恵は、宇宙科
学研究所室長の的場に誘われ、小惑星探査機ミューゼスCの
プロジェクトチームに参加する。構想17年、悲願のプロジ
ェクトがいよいよ実現になった時、小惑星探査機は「はやぶ
さ」と命名される。

 地球から60億キロ離れた小惑星イトカワからサンプルを
採取して帰還するという、前人未到のプロジェクトに挑んだ
人々の7年間にわたる奮闘の物語。長年の研究と努力の積み
重ね、けっして多くはない予算の中で、理工一体となって作
り出された探査機「はやぶさ」。計画実現までの道程、打ち
上げ後、次々と発生する機械トラブル、予算獲得のための対
外交渉、スタッフ内の人事問題、プライベートの出来事など
を乗り越えるスタッフたちの一喜一憂が丹念に描き出される。

 徹底的な科学考証と緻密なVFXによるはやぶさ航行シー
ン、リアルに再現された美術セットと、綿密な取材に基づく
ドラマを映画として見事に融合させた、見応えのあるエンタ
ーテイメントとなっている本作だが、本作最大の勝利の鍵と
なったのは、劇中唯一の架空のキャラクター「水沢薫」を設
定したことだろう。(他の登場人物は実在の人物がモデルと
なっている)
 科学者を目指す彼女は、ひょんなことから研究所で働きな
がら、はやぶさの動向を見守り続ける事になる。科学や天文
学のことになると他のことが目に入らなくなるほどの「マニ
ア気質」の持ち主で、やや奇矯な振る舞いが目立つが、時に
は事態打開のヒントをポロリとつぶやいたりもする。そんな
何ともユニークで憎めない薫を、竹内結子が血の通ったキャ
ラクターとしてチャーミングに好演する。
 彼女は「架空」のキャラクターである特権を活かして、劇
中のプロジェクトの一部始終を観客とともに見つめる。
 彼女が「虚実」を超えて画面の端々にひょこっと顔を出し、
ドラマの中にちゃっかり存在することで、無機質な室内劇シ
ーンにもそこはかとない可笑しさ・愉しさを生み出し、さら
に専門的な科学解説も判りやすく説明する「劇中世界と観客
との橋渡し」的役割も担う。

 本作はその構造上、宇宙でのはやぶさの活動と地球上での
群像ドラマの2つの視点を並行して描くことになり、物語が
ともすれば単調になりがちである。彼女の存在はそれぞれの
シーンに躍動感を生み出し、観客の注意を促す「動線」とも
なる、まさに「映画的」なキャラクターだと言えるだろう。
 また、劇中で彼女が「絵日記を描く」シークエンスによっ
て、本来は意志も思考もない無機質なメカニックであるはや
ぶさが「キャラクター化」され、「映画の登場人物」的存在
としてのはやぶさを観客に認識させることにも成功している。
 決してはやぶさ自体が「頑張る」わけでも「健気」なわけ
でもないが、そういう「印象」を観客は受ける。しかしそれ
は、スタッフの情熱や努力が、そのまま具体的に可視化され
たものなのだ。

「実体を持たないデジタル映像であるはやぶさ」と「生身の
俳優のドラマ」というバラバラの構成要素が、同一の物語内
に混在している中で、そこに「フィクション」と「ノンフィ
クション」の中間に位置する「薫」という存在が触媒として
加わることで、各要素は「映画」としても有機的に結合し、
宇宙と地上の「異なる時空間」のドラマを鮮やかにひとつの
「物語」につなげてみせる。
 水沢薫は、本作において「通訳」であり「案内人」である
と同時に、このプロジェクトに関わった人々、科学に携わる
人々すべての「代弁者」なのである。

 不可能と思われるミッションにくじけずに挑み続ける人々
の姿を温かく、まっすぐ見つめる演出は、「はやぶさの帰還」
を見守ったすべての人々の感動を裏打ちし、その「記憶」と
物語が重なることで、感動は再び物語から現実へ、「フィク
ション/ノンフィクション」の時空を超えて「帰還」してい
く。
 人知れず困難な仕事に挑戦し続ける人々がいる。長い歴史
を受け継ぎ、今もその挑戦は続いている。人が描く夢とその
人生は、この宇宙に星の数ほどある。

 はやぶさの後継機「はやぶさ2」は2014年に打ち上げられ、
2020年末頃に地球に帰還する予定である。

(2011/10/28 天動説)


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