【映画批評 過去記事から】
うさぎドロップ■2011/ビスタサイズ/113分
■制作:スモーク
監督:SABU
脚本:SABU、林民夫(原作:宇仁田ゆみ)
撮影:柳田裕男
照明:宮尾康史
編集:坂東直哉
音楽:森敬
出演:松山ケンイチ、芦田愛菜、香里奈
   桐谷美玲、キタキマユ、綾野剛
   池脇千鶴、風吹ジュン、中村梅雀




 祖父の葬儀のために久しぶりに実家を訪れたダイキチは、
周囲から浮いた存在の6歳の少女・りんと出会うが実は彼女
は祖父の隠し子だった。りんを施設に入れようと言う親族た
ちの意見に反発したダイキチは、つい自分が引き取って育て
ると宣言してしまうのだが…

 映画『うさぎドロップ』の冒頭は、27歳の青年ダイキチ
と6歳の少女りんが並んで夜の一本道を歩くシーンから始ま
る。
 まるで「映画のエンディング」のような画面には、二人が
喪服であることもあって、不安感が色濃く滲む。二人はどう
いう関係なのか。その置かれた状況とは何なのか?提示され
るそれらの疑問に応えるように、そこへ至るまでの過程が、
回想シーンを織り交ぜ、時系列を入れ替えながら軽快に語ら
れていく。
 複雑な生い立ちと行き場のない幼いりんの境遇に感化され、
その場の勢いで思わず自分が育てると宣言してしまい、周囲
の反対を押し切る形で引き取ってしまうダイキチ。

 慣れない生活の変化、毎朝の出勤時のドタバタぶり、現実
逃避的妄想から突如始まるダンスシーンなど、SABU監督
ならではの作劇のテンポと映像のリズム、疾走感(おなじみ
の強烈な「走る」イメージは、今作ではより深い形で有機的
に物語中に組み込まれている)、微妙な心情を真正面から捉
える人物描写は、この題材においても健在である。

 その作品世界の中で、これまでキャラクター性の濃い、奇
抜な設定の役を演じることの多かった松山ケンイチが、ここ
ではごく普通の青年像を自然体で演じ、それに呼応するよう
に芦田愛菜が複雑な境遇を抱えるりんを、卓越した表現力で
好演している。とりわけ葬儀のシーンで庭にひとり立つ姿の
圧倒的な存在感(ダイキチの運命を左右するほどの!)には
目を瞠るものがある。フレーム内にすっぽり収まるその身体
性は、どのシーンにおいてもきわめて官能的に画面に映え、
ダイキチの体格の大きさや動作のダイナミックさとの対比
(性別、年齢さも含む)と組み合わせは、あらゆるショット
で映像的な面白さとユーモアを自然に醸し出す。

 本作で面白いのは、二人の間に存在する精神的な距離感
(信頼度数)が、実際の「物理的」距離間として表現されて
いることである。しかもその変化は、ドラマの流れに沿って
心と行動の有り様が「反比例」する形になっている。

 物語序盤でのダイキチとりんは、突然の環境の変化に慣れ
ない「不安定」な関係だが、前述のファーストシーンで手を
つないでいる二人、並んで食事し、朝は背負い背負われて走
り、夜は同じ姿勢で眠りにつく等、画面上ではその内面とは
逆に、限りなく「近い」位置関係になっている。

 保育園での友達との出逢い、ダイキチの実家での愉しいひ
とときなど、日々の暮らしの中で、二人の信頼関係は徐々に
深まってゆくが(りんの通園や実家での留守番という形でダ
イキチとの距離も徐々に一定の間隔が取られるようになって
いる)、気持ちのズレとぎこちなさを残したままの関係が継
続するが、物語の終盤で、りんが保育園での友達コウキと、
彼の父の眠る墓地にふたりだけで向ったことで、物語は大き
な転換点を迎える。

 不意にいなくなってしまったりんを探して、奔走するダイ
キチ。一方のりんは、墓石の前で「死」という「現実として
の距離」を実感することで、ずっと心の中で抑えていた感情
を解放する。
 りんとダイキチの距離は、実質的に本編中でもっとも離れ
ることになるが、「心と行動の反比例」の法則に照らせば、
その「物理的距離」を一気に広げたことで、内面的な距離は
逆に一気に縮まったことになるのだ。

 二人は確かな信頼感と愛情を胸に再会するが(ダイキチが
りんを見つけることが出来れば、物語はさらに盛り上がった
のではないかと思うが…)、ファーストシーンでは横並びだ
った二人は、ここではしっかり真正面から対峙している。そ
の形はそのまま保育園のお遊戯会のシーンへとつながってい
く。
 明るく歌い踊るりんを微笑ましく見つめるダイキチと彼の
名を呼ぶりん。整然と区分けられた舞台と客席の距離によっ
て、明確に離れていながら、二人の気持ちはまっすぐピタリ
と重なり合っている。物理的距離も越えてつながる気持ち。
 誰かを真剣に思う気持ち、そこに一片の疑念もないのであ
れば、それはいかなる距離をも無効にすることができるだろ
う。
 ラストショット、仕事仲間たちに向けられたダイキチの携
帯電話の待ち受け画像の中で、明るく笑うりんの姿がそれを
鮮やかに証明している。

「♪ずっと夢みていたいね。もっとやさしくしたいね。きみ
と居られたら、HAPPY」
 ポップで愉しいテーマ曲が締めくくる前向きなエンディン
グに、ファーストシーンのような不安感は微塵もない。
(2011/9/9 天動説)


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