【映画批評 過去記事から】
一命■2011/シネスコサイズ/3D(2D)/126分
■制作:セディックインターナショナル
監督:三池崇史
脚本:山岸きくみ(原作:滝口康彦)
撮影:北信康
照明:渡部嘉
編集:山下健治
音楽:坂本龍一
出演:市川海老蔵、瑛太、満島ひかり
   青木崇高、新井浩文、波岡一喜
   中村梅雀、竹中直人、役所広司



 江戸時代初頭、大名の御家取り潰しが相次ぎ、生活に困窮
する浪人たちの間で“狂言切腹”が流行していた。そんなあ
る日、名門・井伊家に現れ、切腹を願い出る浪人・津雲半四
郎。家老・斎藤勘解由は、数ヶ月前にも同じように訪ねてき
た若い浪人・千々岩求女の狂言切腹の顛末を半四郎に語り始
めるが、それを聞き終えた半四郎は、驚くべき真実を語り出
すのだった…

 形骸化した武家社会、その感情も想像力も喪失したシステ
ムのために、娘夫婦の命を奪われることになった浪人・津雲
半四郎。そのシステムをひたすら死守しようとする大名家の
家老とその家臣たち。運命に翻弄され、ただ大事な人の「命」
を守りたいだけ、というわずかな願いすらも叶わなかったと
知った時、半四郎は一命を賭して、その愚かなシステムに痛
烈な一撃を喰らわせる。
 本作は、半四郎を演じる市川海老蔵が体現する剛胆な迫力
とその根底にある虚無感、その圧倒的な存在感が全編を貫く、
重厚な時代劇である。

 貧しいながらもささやかに暮らす家族の、哀切あふれる物
語が、「守るべきもの」を巡って、生死の際で格闘する壮絶
なドラマへと展開していく。その全編に漂う映像の緊張感と
圧倒的なエモーション。事件の真相を解明するという意味で、
映画全体が一種のミステリ的なニュアンスも帯びているが、
物語は余計な枝葉のないストイックでシンプルな作劇である。

 何気ない幸せや、さりげない思いやりを丹念に温かく描く
ことで、主人公とその家族の思いがひしひしと観る側に伝わ
る。とりわけ瞠目させられるのは、切腹を強いられる瑛太、
自責の念と絶望に暮れる満島ひかりの極限的な演技の凄まじ
さ。饅頭を半分ずつ分け合う暮らしを送ってきた二人が、一
個の「紅葉饅頭」を介して、時空間を越えて再び通じ合う、
夫婦愛の深さが激しく胸を打つ。そしてこの「強い共感」が
そのまま、権力に対する「異議申し立て」に、心情的に加担
することを可能にするのである。

 命を捨てる覚悟を決めた半四郎は、武士に対する皮肉(も
ちろん自己批判をも含む)を込めた戦法で、不条理な武家社
会を糾弾することになるが、クライマックスの殺陣では、半
四郎を中心に、それを取り巻く侍たちがひとつの大きな「塊」
となって雪崩を打つようにダイナミックに移動しながら、殺
意と気迫で斬り結び、一時も気を緩めることの出来ない熾烈
な死闘を繰り広げる。

 ラスト、「空っぽの世界」をまざまざと見せつけられた侍
たちの間に流れる醒めた空気感、深く突き刺さったままの半
四郎の「魂の寸鉄」によって、苦い結末の中にも胸のすく思
いが残ることが、一抹の救いではないだろうか。
 善悪で単純に割り切れない斉藤勘解由の煩悶する複雑な心
情を好演する、新境地ともいうべき役所広司が物語に厚みを
もたらし、終始不穏な空気と殺伐としたニュアンスを醸し出
す青木崇高、新井浩文、波岡一喜の「眼の表情が強い印象を
残しているのも特筆に値すると思う。

 映像は3D基準で作られていることもあり、画面構成(美
術、撮影、照明)が素晴らしく(筆者は2Dで鑑賞したが、
それでも十二分に立体的に観えた)、奥行きと幅のある画面
(舞台)に対して、俳優を画面の芯に捉える画作りが効果的
でショットに力があり、そのルックスからは、現代映画にも
かかわらず「クラシックな時代劇」を観ているような幻惑的
な錯覚を感じさせる。

 時事的かつ同時代性のあるテーマを、一種のファンタジー
でもある「時代劇」というジャンルの中に、バランス良く盛
り込んで成立させた本作は、同監督作品『十三人の刺客』の
系譜を引き継ぎつつ、さらなる進化を遂げた、現代的日本映
画/時代劇における秀作である。  (2011/10/21 天動説)


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