【映画批評 過去記事から】
冷たい熱帯魚■2010/ビスタサイズ/146分
■制作:ステアウェイ
監督:園子温
脚本:園子温、高橋ヨシキ
撮影:木村信也
照明:尾下栄治
編集:伊藤潤一
音楽:原田智英
出演:吹越満、でんでん、黒沢あすか
   神楽坂恵、梶原ひかり、渡辺哲



 家庭不和を抱えつつも慎ましく小さな熱帯魚店を営む社本
は、娘の万引き事件をきっかけに同業者の村田夫妻と知り合
う。人の良さそうな村田の誘いで高級熱帯魚の輸入を手伝う
ことになった社本は、予想もしなかった破滅の道に引きずり
込まれていく…

 日常を浸食していく超絶的な狂気。しかし、この日常には
すでに破裂寸前の狂気が深く潜んでいる。崩壊する善悪の壁、
倫理も常識も破壊する猟奇犯罪。この作品は「愛」すら凍り
付く戦慄の惨劇であると同時に、想像を絶するイメージの連
続で描き出される悲喜劇である。

 犯罪サスペンス映画のフォーマットかと思わせながら、そ
の期待や思い入れを裏切るように、物語はそこから絶妙にす
り抜けていく。底なしの無常感と圧倒的な不条理感、目を背
けたくなるような不快感が渾然となって画面からにじみ出す
が、限界量を超えたそれらはブラックユーモアへと変換され、
神経を逆撫でするような作劇は、やがて主人公による意表を
ついた「逆転劇」へと反転し、ねじれた形のエンターテイメ
ントへと化学変化する。

 本作の登場人物は「信じること」と「疑うこと」が行動原
理とされている。犯罪行為を肯定し狂信する村田夫婦によっ
て、吹越満演じる主人公・社本はほとんど洗脳に近い思考麻
痺状態で共犯者となる。家庭内は疑心暗鬼でぴりぴりとし、
妻と娘も村田たちの甘言に乗せられて、その言葉を妄信して
いく。村田を疑っては殺されていく男たち、疑惑を持ち続け
るやくざと刑事。
 さながら「水槽」という巧妙な疑似世界に泳ぐ魚のように、
人々は自らの置かれた世界に慣らされながらも、無意識にガ
ラスの向こうの世界を透かし見ている。

 極限状態が続く中で、信じるべきものが常に不安定な社本
は、村田に理不尽な論理に罵倒され続けた末に、ついに自分
自身を信じるしかない状況に追い込まれていく。
 でんでんが圧倒的なテンションで怪演する「史上空前の殺
人鬼」村田を、最終的に遥かに超越する社本の「突抜けた」
狂気、地球46億年分の過去と未来を一瞬で終わらせてしま
うような究極の決断が、自分を含めてすべての人にかかった
「呪縛」を解き放つ。あたかも「ガラスの水槽」を内側から
打ち破るかのように。

 しかし、その極限状況の果てに、やっとひと欠片見えたか
に思えたその「希望」は、はたして絶望的現実なのか、希望
的理想なのか。彼がその最後の時に信じたものが何だったの
か、それはそのまま、映画を観ている一人ひとりへの問いか
けでもある。          (2011 10/12 天動説)


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