【映画批評 過去記事から】
二重生活■2016年/ビスタサイズ/126分
■制作プロダクション:テレビマンユニオン
監督・脚本・編集:岸善幸
原作:小池真理子(『二重生活』角川書店)
撮影:夏海光造
照明:高坂俊秀
美術:露木恵美子 
録音:森英司
音楽:岩代太郎
出演:門脇麦、リリー・フランキー、長谷川博己
   菅田将暉/河井青葉、篠原ゆき子、宇野祥平
   岸井ゆきの/西田尚美、烏丸せつこ

【映画公式サイト→】

覗き込んだ世界は、禁断の人間模様―――
 大学院の哲学科に通う珠は、修士論文の準備を進めていた。
担当の篠原教授は、ひとりの対象を追いかけて生活や行動を
記録する「哲学的尾行」の実践を持ちかける。同棲中の彼に
も相談できず、尾行に対して迷いを感じる珠は、ある日、資
料を探して立ち寄った書店で、マンションの隣の一軒家に美
しい妻と娘とともに住む石坂の姿を目にする。石坂の後を追
うように店を出る珠。珠の「尾行する」日々が始まった——


d(>_<  )Good!!(2016/07/01 シアターキノ B)



 誰かを尾行する。主にそれは私立探偵の領分だが、しかし
誰かの後をつけ始めた瞬間、人は誰でも「観察者」になる。
そして文字通り客観的に「観察」する事で、少なからずその
人の内面が見えてくる。
 本作の主人公・白石珠は大学院の哲学論文を書くために、
無作為に選んだ1人の対象者の生活や行動を記録するという
「哲学的尾行」を始める。人間の表の姿と、その裏側に隠さ
れた事情。何気ない日常の風景が、視点を少しずらすことで
まるで違って見え、それまで見えていなかった世界が(ごく
身近な親しい相手にさえ)存在するということに気づく。だ
がその興味が無意識に逸脱し、対象者の世界に不用意に深入
りしてしまうことで、彼女の生き方も変わっていくことにな
る。

 観察/対象者の距離感を注意深く丹念に撮った映像が繊細
かつ巧妙に組立てられ、「他人を観察する主人公」を、観客
がスクリーン越しに観察する、という構図の面白さ、サスペ
ンスフルな展開に次第に引き込まれていく。
 平熱感を保った自然体の門脇麦が素晴らしく、地味なキャ
ラクターを「印象的」に演じている。その一方で、主人公を
はじめとして、登場人物の誰にも共感できないように周到に
演出されていて、感情移入する隙を与えない作劇は徹底的に
ドライだ。観客は主人公と一緒に劇中の出来事に向き合うこ
とを求められる。それがまるでドキュメンタリ映画のような
リアルな印象を与えている。

 見覚えのある日常の描写と非日常的な事件の対比は、後半、
予期しない形でねじれ始め、観察対象者たちのドラマがきり
きりと絞り出されてゆく中で、珠の物語と並行して(あるい
は二重に)、リリー・フランキー演じる篠原教授の物語が濃
密に立ち上がってくる。なぜ彼は彼女に「尾行」を勧めたの
か。目に見える現実と見えにくい事実との差異を実感するこ
とで、人間とは如何なるものなのかを婉曲的に示唆する一方、
自分も対象者であり観察者であったことを匂わせる。彼女の
論文を通じて、未完成の「仕事」を完成させると同時に、そ
れは彼が彼女に托した「遺書」のように思える。

「他人を観察することは自分を探すこと」——これは「映画
を観ることは自分を探すこと」と読み替えてもいいかもしれ
ない。「観る」という行為は、常に個的な体験でしかありえ
ない。孤独を意識した時に不意に現われるもう1人の自分、
批判的にせよ肯定的にせよ、人は誰もが「二重生活」の中に
いる。
関連記事
RSSフィード iGoogleに追加 MyYahooに追加 はてなブックマークに追加
NEXT Entry
『鬼龍院花子の生涯』
Entry TAG
2016鑑賞   岸善幸   門脇麦   岸井ゆきの  
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
Maps
PROFILE

gadget9007

Name:竹澤収穫



 邦画が中心の映画批評人。
物語そのものより、映画にお
ける「映像表現」の面白さを
重視しています。映画の採点
評価はしません。
 コメント、トラックバック
もお待ちしております。
●連絡先 →

COCO

ACCESS
最新記事一覧
『TOKYO NOIR トウキョーノワール』 Aug 13, 2017
『いぬむこいり』 Aug 12, 2017
『サタデー・ナイト・フィーバー』 Aug 02, 2017
『トンネル 闇に鎖された男』 Aug 02, 2017
『アサシン 暗・殺・者』 Jul 31, 2017
『近キョリ恋愛』 Jul 31, 2017
ペ・ドゥナ(女優)フィルモグラフィ Jul 31, 2017
『極道大戦争』 Jul 30, 2017
『ロックンローラ』 Jul 29, 2017
『心が叫びたがってるんだ。』 Jul 29, 2017
全記事表示リンク
検索フォーム
ブログ内ランキング
ブログパーツ

Page Top