【映画批評 過去記事から】
探偵はBARにいる■2011年/ヴィスタサイズ/125分
■製作:東映東京撮影所
監督:橋本一
原作:東直己
脚本:古沢良太、須藤泰司 
撮影:田中一成
照明:吉角荘介
編集:只野信也
音楽:池頼広
出演:大泉洋、松田龍平、小雪、西田敏行、波岡一喜
   田口トモロヲ、有薗芳記、竹下景子、松重豊
   高嶋政伸、本宮泰風、石橋蓮司

『探偵はBARにいる 2』映画公式サイト



 札幌の歓楽街・ススキノ。この街の裏も表も知り尽くした
探偵の「俺」の元へ、コンドウキョウコと名乗る女から依頼
の電話が入る。簡単な仕事と思って引き受けるが、その直後
に拉致され半殺しの目に。自力での報復に動き出した「俺」
だったが、数々の謎とさらなる危機が彼を待ち受けていた…

 「タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きて
いく資格がない」というのは、ハードボイルドを語るときの
定番の一節だが、フィクション上とはいえ、そんなロマンあ
ふれる男の世界は、はたして「現在の日本」で成立しうるだ
ろうか。そんな問いに明解な答えを出してくれるのが本作、
『探偵はBARにいる』である。

 不断の軽妙さと不屈の精神を併せ持つ探偵の「俺」。 事
務所がわりのバーにかかってきた謎の依頼電話をきっかけに、
脅迫され、命の危険にさらされながらも、けっしてひるまず
に事件の真相を追ってひたすら邁進する。
 一見、冴えない三枚目に見えながら、しかしその身体には
紛うことなきハードボイルドな血が流れている。

 ヘタをすれば「軽薄」に堕する可能性もあるこのキャラク
ターを好演する大泉洋は、実際に北海道・札幌を活動拠点と
する俳優であり、地元の空気感に馴染んだその伸び伸びした
演技と、硬軟を絶妙に切り替えるサジ加減の巧さが「俺」と
いう人物を明瞭にキャラクターライズし、魅力あふれる人物
としての存在感を際立たせている。

 また、彼が頼りにする相棒・高田の、いかにも「映画的」
なキャラクターも楽しい。いつも居眠りばかりしていて、華
奢な見た目とは裏腹に腕っぷしが滅法強いという人物像が、
演じる松田龍平のパーソナリティと絶妙に融合。リズミカル
な「俺」との掛け合いや、ピンチの時に(ちょっと遅れて)
ふらっと現れるような、つかず離れずの距離感も小気味いい。

 映画は、仕事上の成り行きで「俺」が乱闘に巻き込まれる
シーンから始まるが、冬の北国ならではの降り積った雪の使
い方の巧さと、段取り感ゼロで画面内を縦横無尽に動き回る
スリリングなアクションシーンにいきなり瞠目させられる。
 中盤の雪原での追撃線においても、画面のブレを厭わない
カメラワークの勢いが、圧倒的な加速感と緊張感を生み出し、
まさに手に汗握る面白さが観るものを物語に一気に引っ張り
込む。
 アクションシーン以外でも、シーンの要所要所に挿入され
る「縦の動き」(階下にあるバー、パーティ会場に通じる階
段、生き埋めにあう雪穴、高田の寝ぐらである階段の踊り場、
雑居ビル、聞き込みに訪れるテレビ塔やススキのビルの屋上
など)が生み出す映像のリズムなど、どのシーンにも画面を
停滞させない緊張感がある。

 「俺」は、「敵」の素性を調査をするうちに、その洞察力
と行動力で過去の事件とのリンクを次々に炙り出し、それが
さらなる謎とピンチを引き寄せることになるのだが、飛び込
んだ事件の渦の中で、時にジタバタともがき、時に悠然と抜
き手を切って進む、その一挙手一投足が、そのまま映画の面
白さに直結している。
 序盤~中盤ではオフの独白(ナレーション)でハードボイ
ルド文体を気取りつつ、実際には微妙に「理想とズレた現実」
にどたばたと生きるギャップの面白さやユーモラスな言動が
目立つ「俺」が、次第に骨太でハードな面や無常感を漂わせ
るナイーブな面を見せ始め、それがいつのまにか王道の探偵
ドラマに反転していく意外性。
 映画自体も、前半では事件に巻き込まれていく状況を躍動
感ある映像の積み重ねで巧みに見せ、後半に進むにしたがっ
て次第にゆっくりとしたメロウなニュアンスに移行していく。

 探偵は物語の中で常に「傍観者」、望まざる「第三者」で
あり続ける。事件の核心に深く迫りながらも結果的に事件の
周囲でただただ振り回され続ける「俺」。「誰も見殺しにし
たくない」という思いも「誰も救えなかった」現実の前にし
たたかに痛打される。
 事件の裏表に見え隠れする様々な人生模様を見つめつつ、
それでも彼は辛さを噛み締めて再び立ち上がる。生きていく
ための「タフ」さと、「優しさ」という生きていく資格をも
つ男。その原動力は「矜持」であり、その報酬は「誇り」で
ある。

 本作は「起承転結」の物語構造と「喜怒哀楽」の物語進行
が映像表現によって見事にシンクロした、ある意味王道の、
極めて「映画らしい」映画である。東映の(あるいは日本映
画の)娯楽活劇の遺伝子を引き継いで(東映作品へのオマー
ジュもあり)、ハードボイルド的な乾いた映画文体を基本と
しつつも、それを「ストレート」にではなく、限りないユー
モアと演歌的な叙情性で割った「ハイボール」的な作劇にす
ることで、本来の風味を損なうことなく、口当たりのよい普
遍性を得ることができた。同時代性と現代感覚を持った愛す
べきキャラクターの「俺」は、いわば「星桃次郎」の後輩で
あり、「車寅次郎」の甥っ子である。
 私たちの生活の中に活力の源として「映画」があるように、
今日も明日も、きっと探偵はBARにいる。
                 (2011/9/30 天動説)


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