【映画批評 過去記事から】
『アブラクサスの祭』■2010年/ビスタサイズ/113分
■制作プロダクション:オフィス・シロウズ
監督・脚本:加藤直輝
脚本:佐向大 原作:玄侑宗久
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
編集:加藤ひとみ
音楽:大友良英
出演:スネオヘアー、ともさかりえ、本上まなみ
   村井良大、たくませいこ、ほっしゃん。
   山口拓、草村礼子、小林薫

【映画公式サイト→】

 禅僧の浄念(スネオヘアー)は、元ロック・ミュージシ
ャンで、かつてはうつ病で入院していたこともあるが、現
在は福島の小さな禅寺に身をおき、妻の多恵(ともさかり
え)と5歳の息子・理有(山口拓)と静かに暮らしている。
 しかし、仏の道を志しながらも未だ精神的に不安定な浄
念は法事や説法すらままならず、処方薬を常用し、アルコ
ールにも頼る煩悩にまみれた日々。そんなある日、ふとし
たきっかけで音楽への想いが断ち切れないことを自覚した
浄念は、地元でのライブ開催を強く願うのだが…
d(>_<  )Good!!(2012.8.25)

 僧侶とうつ病、仏教とロック、薬と飲酒、寺とライブ。
異質なものがぶつかりあう意外性。自己批判と自己肯定の
繰り返しの中をさまよう浄念の精神修行の日々が描かれる
本作は、その題材から一見、ヘヴィな人間ドラマかと思い
きや、彼の純朴で憎めないキャラクターと相まって、重苦
しいイメージを回避。躁鬱の状態は描かれるものの、いず
れも抑えた描写に留まり、夫婦生活が破綻したり子供が傷
付くような(ありがちな)悲劇的な展開は一切ない。逆に
緊張感を残しつつも、喜劇的な軽妙さと、どこかのんびり
したムードを醸し出している。
 夫をびしびし叱りつけながらも優しく見守る妻、ちょっ
と風変わりな父を愛してやまない幼い息子、浄念の良き理
解者である寺の住職(小林薫)とその妻(本上まなみ)。
彼を取り巻く人々の「平熱感覚」のリアリティも心地よい。

 ギターやピアノを弾き、歌を歌い、車を運転し、酒を飲
み、人と語り合う、ごく普通の男の、あくまで肉体的な行
動の中に描き出される悟りと迷い。川の流れのように、時
に穏やかに、時に激しく荒れ狂うその相反する感情、しか
しそれもまた「日常」の一部であり、映画は、人の生死も
苦悩も、喜びも、すべては「日常」の中の出来事として淡
淡と描いていく。
 作品の根幹にある観念的なモチーフを「超自然」的な作
劇に走ることなく、日常に根ざした具体的な描写の中で表
現する演出は、例えば劇中の「マイク」の扱い方によって
も明確だ。学校の講演会→カラオケ→ライブステージ、と
いう時系列に沿って変遷する「マイクに向かう浄念」の姿
が、そのままこの作品における浄念の意識の変化、実存的
意味の変転を表わしているのである。

 一般的に使われる「主人公」という言葉は、禅の言葉で
本来の心が清らかで、煩悩のない無心の状態を指す。まっ
たくの「無」になれば、人は100%「役」に成り切れる
のだと禅は説くのだが、本作の「主人公」浄念は、禅僧・
夫・父親というそれぞれの「役」に成り切るために、再び
「音楽」を手にすることを選ぶ。経を唱え、問答をするた
めの「声」と「言葉」は、「ビート」と「歌詞」に成り変
わり、無心にギターを弾き、声の限りに歌い続けることで
「自分自身」が解放されていく。夕闇の中で行われる、ま
さしく「魂の」ライブステージは、誰にも真似のできない
「行」であり、彼にしか出来ない「説法」なのだ。
 そして「すべて」が、まるく優しくひとつになっていく。

 けっして難しくはない、ほんのちょっとした気付きや発
見の大切さ。未来や過去ではなく、ただ「今」に感謝して
生きることの意味。映画ならではの面白さが横溢する中、
それらがじんわりと画面から滲み出してくる。
 日々是好日。非日常の祭りから、再び、平凡な日常の生
活へ。『アブラクサスの祭』は、多様な映画的な面白さに
彩られながら、人生をより「楽に生きる」ための示唆に富
んだ映画である。
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