【映画批評 過去記事から】
ゲゲゲの女房■2010年/ヴィスタサイズ/119分
■制作プロダクション:スローラーナー
監督:鈴木卓爾
脚本:大石三知子、鈴木卓爾(原作:武良布枝)
撮影:たむらまさき
アニメーション:大山慶
照明:平井元  美術:古積弘二
編集:菊井貴繁
音楽:鈴木慶一
出演:宮藤官九郎、吹石一恵、坂井真紀
   夏原遼、村上淳、宮崎将、柄本佑
   唯野未歩子、平岩紙、鈴木慶一
   徳井優、南果歩

【映画公式サイト】→


 良縁を願っていた布枝は10歳年上の漫画家・武良茂
とお見合いから5日後に結婚。しかし、島根県から上京
した布枝を待っていたのは、甘い新婚生活とは程遠い、
底なしの貧乏暮らし。最初はおおいに戸惑う布枝だった
が…

 とても不思議な映画である。実写の映像でありながら、
そのイメージには「漫画」的な自由闊達さが色濃く反映
されていて、画面のフレームがそのまま漫画のひとコマ
としてのニュアンスを持っている。(漫画の鬼太郎がア
ニメーションで動き出すシーンがあるが、印象的に他の
シーンとまったく違和感がない)
 今や妖怪漫画の第一人者である水木しげると布枝夫人
の出会いから貧乏生活時代を描く本作だが、TVドラマ
版に慣れ親しんだ人は唖然とするかもしれない。実際、
物語はほぼ二人の結婚直後の日々に焦点が当てられ、あ
まりに価値観の違う生活に戸惑ってばかりの布枝が、ゆ
っくりと茂の人柄と才能を理解していくまでを、過剰に
起伏を盛り込んだりせずにひたすら淡々と描いていく。

 仕事のことも、その人となりもよく知らないままの見
合い結婚。夫婦とはいえ、互いに満足に目も合わさず、
必要最小限の会話しかしない、ぎこちない新婚生活。作
品の売れ行きも芳しくない上に、恩給も仕送りに消え、
二人の毎日は食べる米にも事欠き、質屋通いも日常茶飯
事、食パンの耳から、はては道端の野草まで駆使するサ
バイバルな毎日。
 しかしそんな困難な状況にあっても笑みを絶やさず、
飄々と生きる茂と、そんな旦那様の言動に困惑しながら
も次第に順応していく布枝。このコントラストがユーモ
アを生み、画面を活き活きとさせ、ドラマをゆっくりと
押してゆく。そしてそのゆるやかな風合いが、いつしか
観ている側の「現実の角(かど)」を取り去っていく。

 ぶっきらぼうで素っ気ない中に、どことなく優しさを
感じさせる茂役を宮藤官九郎が見事に好演。布枝役・吹
石一恵も、長身と大きな瞳というルックスを活かして、
不安も疑心も希望も強さも思いやりも、全てをその表情
の中に湛えて、抜群の存在感を魅せる。

 映画は「物語」のエッセンスを残して,大胆にトリミ
ングされ、省略と誇張が織り交ぜられた大胆かつ奇抜な
ドラマ構成になっている。
 茂の母・イカルを妖怪的存在になぞらえて時空間をま
たぐように挿入したり、二階の間借り人・カネナシが実
は…という奇想天外な説話技巧、何喰わぬ顔で堂々と劇
中に「妖怪(的なもの)が存在する」という、虚実ない
混ぜの人を喰ったような語り口は、まるで水木漫画その
もの。もはや完全に「叙情的な夫婦物語」の域を越えて、
「幻想映画」の領域にはみ出している。

 まだ日常が情報で埋め尽くされていない時代。極めて
静かで慎み深い生活。その静穏な時間の流れが、神秘的
な世界にゆるりとすり替わってゆく、奇妙で官能的な瞬
間。現代の風景(ロケ)から「純・昭和」的な風景を切
り取る巧みな画面構成、映像と音楽のシンクロ率の高さ、
セリフを含めて「過剰な音」が排除され、心音のような
穏やかなビートと、歩くようなテンポにのって、登場人
物の会話や動きがリズミカルに呼吸する。

 「暗い漫画は売れない」と出版社から否定されながら
も、ひたすら妖怪漫画を夜遅くまで描き続ける茂。
 漫画のことはよく判らないながらも、その後ろ姿を見
つめて、その努力は必ず報われるはずだと信じる布枝。
 おそらくは現代の日本が失ってしまったものの全てが
ここにある。描写こそ「幻想的」に見えてしまうが、あ
の時代や生活は、確かな「現実」だったのだ。
 ポジティブな「妖しさ」がありえた時代を描く本作は、
ネガティブな「怪しさ」に満ちた現代を批判する、いた
ずら好きの「妖怪」である。  (2011/2/1 天動説)


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