【映画批評 過去記事から】
まほろ駅前多田便利軒■2011年/ヴィスタサイズ/123分
■制作プロダクション:リトルモア
           フィルムメイカーズ
監督・脚本:大森立嗣
原作:三浦しをん
撮影:大塚亮
照明:木村明生
編集:普嶋信一
音楽:岸田繁
出演:瑛太、松田龍平、鈴木杏、片岡礼子
   柄本佑、本上まなみ、大森南朋
   横山幸汰、梅沢昌代、松尾スズキ
   麿赤兒、高良健吾、岸部一徳




 都会というほど華やかでもなく、かといって田舎とい
うには雑然として喧しい街・まほろ市の駅前で便利屋を
営む多田啓介と、そこにひょんなことから転がり込んで
きた旧友の行天春彦。「多田便利軒」に持ち込まれる雑
多な仕事依頼を引き受けながら、二人は訳ありの人たち
の様々な人生模様に関わっていく。


「わたしが金のためにやらないことは、金のためにやる
 ことより、はるかに沢山あります。」
──『ユダの山羊』 ロバート・B・パーカー/菊地光訳


 真面目で硬派な便利屋・多田と、気まぐれで風変わり
な相棒・行天のコンビが魅せる「ハート」・ボイルド物
語。瑛太と松田龍平がそれぞれ従来の役柄のイメージを
踏み越えたキャラクターを新鮮に演じる。「相棒モノ」
ならではの、絶妙かつオフビートな掛け合いを見せつつ、
何処か水と油のようにしっくりと混じり合うことのない
質感の違いを感じさせる二人、その微妙な間合いの「む
ずがゆさ」が、車中の会話や中華料理屋、依頼人の部屋
など、至る所で映画的な面白さとなって匂い立つ。

 とりわけ「熱く」もないが、さりとて「冷めて」もい
ない「平温」の二人の男たち。薬の密売に絡むトラブル
や、色恋のもつれによる刃傷沙汰など厄介な事件に巻き
込まれながらも、二人は街を軽やかに駆け抜ける。ある
いは、「街」と一心同体となって奔走する。二人が「動
く」ことで街の「空気」も動く。その「力学」が、さら
に映画の面白さを生み出す。
 それぞれの事情を抱えた人々の、人生の「断片」が前
後に密接にダブり、あるいはカットバックするドラマの
有り様と、次にどんなショットが連なるか予測不明な展
開は、まさに「活劇」であり「映画」そのものである。

 依頼案件の履行を通して、自由を束縛する「何か」か
ら依頼人を解放していく多田と行天の行動を、映画は努
めて淡々と語っていく。だが、特別な事情と過去を抱え
ているのは、彼らもまた同様だった。
 やがて、相反する性格的な磁場の中で、二人の関係性
に齟齬が生じ、不意に終わりを告げる。それぞれのやり
方で痛みをカバーしてきた二人の感情が、まるでビール
の泡のように止めどなく身体から溢れ出し、言葉が苦く
こぼれ落ちる。自縄自縛の魂たちの不協和音が鈍く響く。

 多田の一人称で始まるこの映画は、同時に「"まほろ"
という街」から観た「一人称」映画でもある。不在の存
在たる「もう一人の主人公」。「色相」や「明度」こそ
異なるものの、同じ「彩度」で生きる二人を「まほろ」
という街の磁場が再び引き寄せる。人には生きていくた
めの「場所」があるのだ。
 エンドロールで点描される、善も悪もない人々がそれ
ぞれの「場所」で見せる表情が人は人なりの、自分は自
分なりの幸福な人生。言うまでもなく「まほろ市」も、
「便利軒」も、その「場所」のひとつである。

 明日もこの街で彼らは生きている。彼らが金のために
やらないことは、この街で暮らす人の分だけ、山のよう
にあるのだ。
(2011/5/16 天動説)

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