【映画批評 過去記事から】
エンプティブルー■2009年/アメリカンヴィスタ/デジタルHD/130分
■制作:スタジオステパノ
監督・原案・脚本・撮影・編集:帆根川廣
助監督:羽鳥高正
衣装・メイク:椿マナミ
音楽:Raiji&Chips
出演:秦秀明、長谷川葉生、今井雄一
   石守裕輔、小寺里佳、古木峡也
   北爪啓思、福岡志保美、新井マユミ
   佐々木郁子、立木睦己、須賀善規


 単調な工場での仕事や空疎な人間関係の毎日を淡々と過ご
す青年・田嶋タカシ。彼は毎晩のように、どこまでも続く階
段を登り続けるという夢に悩まされていたが、ある日、その
夢の中で1人の少女と出会う。人付き合いの苦手な彼は、夢
の中の少女との語らいに安らぎと救いを見出す。少女はずっ
と前からタカシのことを知っていたと話すが、タカシは彼女
のことを思い出すことができなかった…。


d(>_<  )Good!!(2011/4/10)

 まるで工場で量産されるコイルの束のように、くるくると
同じスピードで巻き取られ、積み上げられてゆく日常。現実
はどこからが「巻き始め」で、どこで「巻き終わり」なのか、
さっぱりわからない。その意味では「夢」の方がよっぽど事
実として明確だ。
 くるくると終わり無く続く回転運動。車のタイヤ、ウィン
ドウに映り込んでは目まぐるしく巻取られるように変化する
外の風景。外界と隔絶された空間の中でのみ、息をつくタカ
シ。
 全編にわたって、空気感を感じる圧倒的な映像と息づく音
楽、呼吸をするような編集のセンス。デジタルカメラによる
撮影は常にすっきりとクリアで、夢の中・森や遺跡などの空
間に漂うわずかな湿気や、街の中の冷たく乾いた空気感、車
の中の静かな密閉感などが、シーンごとに的確に写し込まれ
ている。映像に質感が感じられ、色彩も鮮やか。

 登場人物は総体的なイメージとしては寡黙であり、人と人
の関係性の描写も努めて平静で、それゆえに肌感覚のリアリ
ティが感じられる。人物の呼吸が判るような自然なニュアン
スの積み重ねは、結果的に映像と相まって、作品を映画的に
雄弁なものにしている。主要スタッフ3人が5年の歳月をか
けて制作したという、その丹念で誠実な作りに好感が持てる。

 きしきしと軋む現実の世界と、ゆるやかに流れてゆく夢の
世界。それを横断するタカシの「本当の世界」はどこにある
のか。ありがちな「夢と現実を巡るファンタジー」かと思い
きや、物語はあえてそこで「幻想の力」に依存しないことを
明確に宣言する。夢を観ていることを自覚したまま、なお夢
から醒めようとする意思。幻想的な要素は映画のスパイスに
使うに留めて、ラストできちんと現実へ向かって収束する作
劇。
 規則正しく「回り続ける」日常を、タカシは踏み越えてゆ
く。夢と記憶と現実の化学反応の結晶が、雨上がりの陽に照
らされた空気の匂いのように心に沁み入る。
関連記事
RSSフィード iGoogleに追加 MyYahooに追加 はてなブックマークに追加
NEXT Entry
『のんちゃんのり弁』 晴れた日は、おべんと持って。
Entry TAG
帆根川廣   2011鑑賞  
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
Maps
PROFILE

gadget9007

Name:竹澤収穫



 邦画が中心の映画批評人。
物語そのものより、映画にお
ける「映像表現」の面白さを
重視しています。映画の採点
評価はしません。
 コメント、トラックバック
もお待ちしております。
●連絡先 →

COCO

ACCESS
最新記事一覧
『TOKYO NOIR トウキョーノワール』 Aug 13, 2017
『いぬむこいり』 Aug 12, 2017
『サタデー・ナイト・フィーバー』 Aug 02, 2017
『トンネル 闇に鎖された男』 Aug 02, 2017
『アサシン 暗・殺・者』 Jul 31, 2017
『近キョリ恋愛』 Jul 31, 2017
ペ・ドゥナ(女優)フィルモグラフィ Jul 31, 2017
『極道大戦争』 Jul 30, 2017
『ロックンローラ』 Jul 29, 2017
『心が叫びたがってるんだ。』 Jul 29, 2017
全記事表示リンク
検索フォーム
ブログ内ランキング
ブログパーツ

Page Top