【映画批評 過去記事から】
掌の小説■2010年/アメリカンビスタ/カラー&モノクロ/80分
原作:川端康成
監督・脚本:
 「笑わぬ男」坪川拓史
 「有難う」三宅伸行
 「日本人アンナ」岸本司
 「不死」高橋雄弥
撮影:板垣幸秀
   八重樫肇春
照明:田中利夫
編集:堀善介
音楽:関島岳郎



 川端康成の短編小説を題材に、4人の監督が撮ったオムニ
バス映画。襖・障子で仕切られる空間性、床につく=横たわ
る人物の反復、桜の花びらや装飾小物、凧揚げをする老人な
どの共通要素が、各話のイメージを相互に繋ぎ、連続性/一
体感を醸し出す一方「小説」という文章による表現がもつ独
特の味わいが、うまく映像表現に転換されている。
 物語はいずれも、とても淡くささやかで、それでいて忘れ
難い大切な「想い」が丁寧に描き込まれていて、印象深い。


■第1話「笑わぬ男」
 路地裏の貧相なアパートで暮らす売れない
作家(吹越満)と病床の妻(夏生ゆうな)。
 自分の死期が近いと感じて「桜が見たい」
という妻のため、夫は桜が咲き誇る裏山へと
向かう。
 身近にいながら、気を遣い合い、微妙な距
離の中で漂い、すれ違い、寄り添う二人の魂。
奇妙な官能性と、原稿用紙の中と外とを横断
するような幻想的な物語。吹越満の端正な顔
立ちが昭和初期の匂いをまとって際立つ。


■第2話「有難う」
 娼婦の菊子(中村麻美)は、ふとした言葉
や風景に、自分が町へ出ることになった幼い
頃(寉岡萌希)のことを思い出す。母ととも
に、「有難うさん」と呼ばれる、評判の運転
手(長谷川朝晴)のバスに乗った日のことを。

 何をおいてもまず、同一人物の幼少・成人
期を演じる寉岡萌希、中村麻美の二人が素敵
だった。次第に二人の表情がシンクロしてき
て、説明的な描写は全くないにも関わらず、
「描かれていない」彼女のドラマ、その経過
した時間がじわりと画面に観えて来るところ
が素晴らしい。


■第3話「日本人アンナ」
 私(福士誠治)は、町で自分の財布を盗ん
だ少女アンナ(清宮リザ)に惹かれてしまう。
妹(菜葉菜)には財布は落としたと伝えた私
は、彼女がロシア貴族の孤児として劇場に出
演していることを知り…。

 少女の幻影に取り憑かれ、その姿を追い続
け、煩悶する青年の「視線」の行方。街の映
画館の銀幕に映る影、ロシア語のか細い歌と
演奏。分ち難く混在する妄想と現実。まさに
憑き物が落ちたように夢から醒める青年は、
観客である「私」とも同化している。


■第4話「不死」
 雨の日も風の日も桜の木の下で、凧を揚げ
続けている老人の新太郎(奥村公延)は、あ
る日、夢か現実か、今は亡き恋人・みさ子
(香椎由宇)と再会を果たすのだが…。

 前1~3話を横断して登場していた老人が
メインとなるエピソード。ごく短い作品なが
ら、香椎由宇のキャラクターの洋風な雰囲気
が和の文学的世界にうまく融合し、幻想的な
ドラマがきりっと語られていて、作品全体を
叙情的にまとめ上げる。ラストショット、そ
のフレーミングが秀逸だと思う。

(2011/4/30 天動説)

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